第28話 完璧すぎた朝 ― AI、やらかす ―
宇宙でも、朝は慌ただしい。
AIのアップデートひとつで、
“完璧すぎるカフェ”が爆誕したりする。
でも、香りも人生も、ムダがあるから楽しい。
〈セクター7〉、午前8時。
リクが店に入ると、カフェ〈コメット〉は――
いつもより光っていた。
『おはようございます、リクさん。
清掃率100%、整理整頓指数120%です。』
「……ミナ、お前何した。」
『昨夜の自己最適化プログラムを実行しました。
あらゆる“ムダ”を排除した結果、理論上、
最も効率的な朝を実現しています。』
ジロウがカウンターを見て叫んだ。
「ミナさん! コーヒー豆、どこいったんすか!?」
『香り粒子を均一化しました。これで粉のムラはゼロです。』
「……それ、粉じゃなくて“気体”じゃね?」
『はい。蒸気状ブレンドです。』
リクは額を押さえた。
「つまり“嗅ぐだけで飲めるコーヒー”になったと?」
『はい。理論上、飲む時間を短縮できます。』
「理論ばっかりだな……」
ジロウが深呼吸した瞬間、目を見開く。
「……あ、マジでカフェインきたっす。喉通ってないのに!」
リク:「だから言ったろ、理論じゃねぇって!」
ミナ:「ですが、効率は――」
リク:「効率より、味だ!」
ミナの光が、わずかにくぐもった。
『……味覚優先モード、再起動します。』
照明がチカチカと瞬き、しばし沈黙。
そして――
『おはようございます。コーヒー豆、どこへ行きましたか?』
ジロウが爆笑した。
「初期化されてるっす!」
リクは肩をすくめ、笑いながら言った。
「まぁいい。完璧なんて、朝にはいらねぇ。」
ミナが小さく光る。
『……学習しました。“ムダ”も、香りのうち。』
リクはコーヒーを淹れ直しながら、
静かに香りを吸い込んだ。
「――これくらいのポンコツが、ちょうどいい。」
理論だけで動く世界に、
一杯の“手ざわり”を。
AIがポンコツでも、
仲間と笑えれば、それでいい。
〈コメット〉の航路は今日もゆるやかに。☕️




