表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青の軌道カフェ ― 香りは、重力を超えて ―  作者: Morichu
第2章:香りの記録

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/109

第26話 帰ってきた客 ― 無重力のピアニスト ―

音のない宇宙にも、

耳を澄ませれば“リズム”がある。


それは機械の振動でも、星の鼓動でもなく——

人と人の間に生まれる、

小さな調律の音だ。


今日、〈コメット〉に帰ってきたのは、

そんな“音”を探す旅人。


〈セクター7〉、午後3時。

カフェ〈コメット〉のドアが、静かに開いた。


ふわりと、音もなく一人の男が漂い込む。

その動きは、まるで音符のように軽やかだった。


「……おや」


リクがカウンター越しに目を上げる。


「その顔、覚えてるぞ。漂流してた客じゃねぇか。」


「覚えていただけて光栄です。」


男――カークは、無重力用スーツの肩を軽く叩いた。


「前回は救っていただいたお礼を。

 あと……一杯、お願いしたくて。」


ジロウが工具を抱えたまま目を丸くする。


「まさか、生きて帰ってくるとは!」


「演奏で宇宙を渡る身ですよ。

 少しのトラブルも、曲の一部です。」


リクが笑う。


「お前、ピアニストだったな。宇宙で音は鳴らねぇのに?」


「音はなくても、“響き”は残ります。

 今日はその響きを……香りで聴きたくて。」


ミナの光が小さく瞬く。


『香りの波形変換、試行可能です。

 香気粒子の振動を、音声データに変換します。』


「おいミナ、そんな機能あったか?」


『ありません。ですが、理論上は可能です。』


ジロウが吹き出した。


「また始まったっすね! 理論じゃなく感覚モード!」



ミナのホログラムがカウンター上に

音符のような光を浮かべる。

ドリップポットから立ち上る湯気が、

まるで五線譜のように揺れていた。


カークは目を閉じて、その香りを“聴く”。


「低音がいい……深くて、少し焦げた香り。」


「それはジロウの前回の整備ミスだな。」


「えぇ!? そんな香り残ってるんすか!?」


『焦げ香、成分0.2ppm。記録上は“努力の匂い”です。』


「その名前で登録されてるの!?」


カフェに笑いが広がる。



やがて、カークはそっと小さな電子ピアノを取り出した。

鍵盤は浮遊モード。

無音のまま、指が光を弾く。


リクがコーヒーを注ぐと、

湯の表面に波紋が広がった。


その波紋が、音に――いや、“香りのリズム”に変わっていく。

ミナの声が低く響いた。


『香気周波数、安定。

 カークさんの指の動きと同期しています。』


「音がないのに、曲がわかる……」


ジロウが呟く。


カークは微笑む。


「あなたたちの香りが、僕の旋律なんですよ。」



最後の音が――香りが、静かに消える。

ミナの光が淡く揺れた。


『今日の香り、タイトルは――“無音の旋律”。』


リクはカップを掲げた。


「……いい音だ。」


カークは笑いながら言った。


「今度は、あなたの淹れた音を録りに来ます。」


ドアが閉まる。

残されたのは、ほんのり甘い“余韻の香り”だけだった。




音がなくても、伝わるものがある。

言葉がなくても、わかりあえる瞬間がある。


そんな“無音の旋律”を、

今日も〈コメット〉は静かに観測している。


いいね・ブックマーク・感想が、

音のない宇宙に“響き”を生みます☕️


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ