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青の軌道カフェ ― 香りは、重力を超えて ―  作者: Morichu
第2章:香りの記録

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23/53

第23話 観測班カナの日記 ― 軌道の向こうの香り ―

私は、〈セクター7〉観測班の通信士――カナ。

毎日、地球と軌道を見ている。

そして、ときどき、あの小さなカフェを。


〈コメット〉の香りは、

通信回線を越えて届く。

今日もまた、ここで静かに、観測を続ける。


私は今日もモニターの前で、データログを眺めている。

地球の青、雲の流れ、太陽光の反射――

どれも完璧な数字に整えられた“美しい情報”。


けれど、その中で、ひとつだけ“計算できないデータ”がある。

それは、カフェ〈コメット〉の通信ログ。


毎日、彼らの音声がバックアップに記録される。

蒸気の音。カップの触れ合う音。

そして、あのAI――ミナの穏やかな声。


『本日の香り、タイトルは――“努力と霧と、少しの笑い”。』


その声を聞くたびに、私はほんの少し、肩の力が抜ける。



同僚が近づいてきた。


「カナ、また〈コメット〉のログ聴いてるの?」


「うん。……彼らの会話、いいんだよね。

 まるで呼吸してるみたいで。」


「AIと人間の会話を“呼吸”って言うか?」


「言うよ。あの人たちはちゃんと息を合わせてる。」


同僚は笑って去っていった。


私は再びモニターに目を戻す。

今日の地球は、少し霞んで見えた。

たぶん、私の視界が曇っているせい。



夕方、作業を終えるころ。

端末の受信ボックスに、ひとつの小包が届いていた。

差出人は――〈コメット〉。


開けると、薄いパッケージの中から、

淡い香りがふわりと広がった。


ラベルには、手書きでこう書かれていた。


「“晴れ、ときどき地球”ブレンド。観測班カナへ。」


私は思わず笑ってしまう。

香りが、目の奥のどこかを優しく撫でた。


モニターの中の地球は、もう霞んでいない。

まるで、あのカフェの灯りが届いたみたいに――。


観測する者にも、観測される者にも、

きっと“香り”は届く。


青い地球と、白いカップのあいだにあるもの。

それを今日、少しだけ感じました。


いいね・ブックマーク・感想が、

〈コメット〉と観測班をつなぐ信号になります。☕️


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