第22話 静かな午後 ― 余熱と笑いと、こぼれ豆 ―
宇宙を救った翌日も、
カフェの仕事は変わらない。
でも――ちょっとした残り香が、
みんなの一日を少しだけおかしくする。
香りが残る午後、
〈コメット〉にはまた、静かな笑いがあった。
〈セクター7〉、午後。
昨日の霧が嘘のように消え、
ステーションは穏やかな静寂に包まれていた。
だが、〈コメット〉の店内にはまだ、
“事件の余韻”が漂っている。
「……なあ、ミナ。香りが強すぎねぇか?」
『はい。昨日の“芳香粒子”が換気層に残留しています。』
「つまり、宇宙がまだコーヒー臭ぇってことか。」
ジロウがくしゃみをする。
「へっくしょん! もう鼻が豆になりそうっす!」
カウンターの向こうで、コトネが
タブレットを見ながら眉をひそめた。
「おかげで補給ドックの搬送ドローンが、
みんなフリーズしてるの。
“香りセンサーが飽和して、
方向がわからなくなった”って。」
リクが吹き出す。
「つまり、宇宙中がいい匂いすぎて、
迷子になったってわけか。」
ミナが補足する。
『芳香粒子の残留濃度、依然として高水準です。
搬送ドローンの“匂いナビゲーション”機能が
混線したようです。』
ジロウが頭をかきながら笑う。
「人間だってこの匂いの中じゃ、
仕事する気になんねっすよ……」
リクが笑いながら肩をすくめる。
「いいじゃねえか。仕事の代わりに、香りで休もう。」
カウンターの上で、“カラン”と音がした。
カップの縁に、ひと粒のコーヒー豆が転がっている。
「……誰だ、豆落としたの。」
『記録照合――該当者、リクさんです。』
「なんで俺だって即答すんだよ!」
ミナがわずかに間を置いて言う。
『データ上、あなたがいちばん“こぼす”傾向にあります。』
「統計出すな統計!」
笑い声が店内に広がった。
そして、香りはもう一度、やさしく漂った。
昨日よりも少し薄く、でも確かに心地よく。
『本日の香り、タイトルは――“余熱ブレンド”。』
「いいね。……今日もゆるくいこう。」
ドタバタの翌日は、少しの間抜けと笑いがちょうどいい。
香りの残る午後、宇宙はゆっくりと冷めていく。
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