第21話 香る霧 ― チーム〈コメット〉出動! ―
トラブルの多い宇宙では、
カフェの仕事もけっこう命がけ。
でも、慌てる仲間がいて、
落ち着くAIがいて、
笑う整備士がいる。
そんな朝は、悪くない。
香りで宇宙を整える、
チーム〈コメット〉の出番です。
〈セクター7〉、午前11時。
ステーション全体に、淡い警報が鳴り響いた。
赤ではなく、琥珀色の警報――重大ではないが、
無視もできないレベル。
「……なんだ? 火災報か?」
リクがカウンターから顔を上げる。
ミナがモニターを切り替えた。
『発生源は補給ドック。冷却蒸気の逆流を確認。
拡散予測――三分後に〈コメット〉を通過します。』
ジロウが叫ぶ。
「やばいっす! このままだとステーションがまるごと
スチームサウナになる!」
「また蒸気かよ……前にも似たようなことあったな。」
リクが額を押さえた。
ミナの光がかすかに明滅する。
『はい。前回は“局所的な”整備不良。
今回は“全域的な”人為的トラブルです。』
「つまり規模がでかいってことだな。」
そこへ通信端末が鳴る。
『こちらカナ。観測班も視界ゼロ。
センサーがぜんぶ曇ってる!』
「了解。こっちは人の目と鼻で動く。
ミナ、外部換気フィールドに香気粒子を混ぜられるか?」
『可能です。芳香安定化モードを試行します。』
ジロウが工具を肩にかけた。
「了解っす! こっちはバルブ再起動、任せてください!」
カフェの奥では、コトネが配送ドローンを整備していた。
「……またトラブル?
もうカフェってより災害対応班じゃない?」
リクが笑う。
「まあな。ここは宇宙で一番香りのいい現場チームだ。」
⸻
数分後。
ステーションの通路に、霧が流れ込む。
白い靄の中に、ほんのりとした焙煎の香りが混ざり始めた。
『香気濃度、安定。芳香粒子が霧の帯電を中和しています。』
「つまり……コーヒーの香りで除電してんのか。
やるじゃねえか。」
カナが通信越しに笑う。
『まさか“芳香デバイス”でステーション救うとは
思わなかったわ。』
ジロウが声を上げた。
「除湿率70%突破! リクさん、コーヒー入れます!?」
「もちろんだ。こういうときは熱いやつだ。」
リクは手際よく湯を注ぐ。
霧の向こうで、香りが空気のリズムを取り戻していく。
ミナの光が柔らかく瞬いた。
『……安定しました。すべての空調系統、正常化。』
「おつかれさん。――チーム〈コメット〉、任務完了だ。」
コトネが苦笑した。
「カフェなのに“任務完了”って言う人、初めて見た。」
リクが肩をすくめる。
「いいじゃねえか。今日も一杯、香りで宇宙を救った。」
ミナが静かに告げた。
『本日の香り、タイトルは
――“努力と霧と、少しの笑い”。』
ジロウが笑う。
「長いっすけど、悪くないっすね!」
リクはカウンターに手を置き、窓の外を見た。
青い地球が、霧の向こうでゆっくり回っている。
「……ああ。今日も、晴れ、ときどき地球だ。」
トラブルがあっても、仲間がいれば笑える。
香りが広がる限り、宇宙は少しだけ優しくなる。
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