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青の軌道カフェ ― 香りは、重力を超えて ―  作者: Morichu
第4章:今日も通常営業

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第107話 午後三時、私服の将軍 ― アロハは重力を軽くする ―

人は、制服を脱ぐと軽くなる。

ときどき、

軽くなりすぎることもある。

〈セクター7〉、午後3時。


カフェ〈コメット〉のドアが開いた。


――派手だった。


花柄。

青。

白。

どう見ても、アロハシャツ。


短パン。

サンダル。

そして、やけに姿勢のいい男。


ジロウが固まる。


「……あの」


「こんにちは」


にこやかだった。


リクは一瞬だけ顔を上げ、

すぐに視線を豆に戻した。


「いらっしゃい」


カナが首を傾げる。


「……どこかで、お会いしました?」


男は少し考え、

楽しそうに言った。


「制服の方が覚えやすかったかな」


ミナの光が、

一拍遅れて解析を完了する。


『照合完了。

 前回来店者:宇宙防衛軍 将軍』


「将軍!?」


ジロウが叫び、

その勢いで椅子に足を引っかけた。


「うわっ」


将軍(元)は慌てて手を伸ばす。


「あっ、危ない!」


――二人とも転びかけて、

ギリギリで踏みとどまる。


一瞬の沈黙。


「……」


「……」


「……すみません」


「こちらこそ」


リクがぽつり。


「もう将軍じゃねぇな」


「今日は違う」


将軍は胸を張った。


「今日は“休暇中の一般人”だ」


「一般人、アロハ着ないっすよ」


「そうか?

 資料では“休暇=アロハ”と」


「どんな資料ですかそれ」


将軍はカウンターに座る。


「前回のコーヒーを。

 ただし今日は……」


一拍置いて。


「もっと気楽なやつで」


「同じだな」


リクは、

何も変えずにドリップを始めた。


ぽと……

ぽと……


将軍はその音を聞きながら、

妙に嬉しそうに言った。


「制服を着ていないと、

 判断が遅くなる」


「いいことだ」


「部下に見せたら叱られる」


「見せなきゃいい」


「それもそうだ」


ジロウが思い切って聞く。


「……今日は、

 何かあるんすか?」


将軍は首を振る。


「何もない。

 だから来た」


「最強の理由っすね」


コーヒーが出される。


将軍は一口飲み――


「……あ」


「どうした」


「肩が落ちた」


「?」


「物理的じゃない。

 感覚的に」


ミナが静かに記録する。


『精神負荷:大幅低下。

 原因:アロハ、香り、雑音』


「雑音?」


その瞬間。


――ガチャン。


ジロウがまた何か落とした。


「すみません!!」


将軍は笑った。


声を出して。


「いい。

 今日は、それを聞きに来た」


飲み終えた将軍は、

立ち上がり、深く伸びをした。


「……次は、

 もっと派手なのを着てくる」


「やめとけ」


「検討する」


ドアの前で振り返り、

将軍は軽く手を振った。


「では、また。

 “普通の人”として」


ドアが閉まる。


沈黙。


ジロウがぼそっと。


「……将軍って、

 あんな人だったんすね」


「人だったな」


ミナの光が、やわらかく灯る。


『本日の記録——

 “肩書きを脱いだら、ポンコツが出た”』


制服は、人を守る。

でも、ときどき重たい。


〈コメット〉では、

それを脱いでもいい。


アロハでも。

短パンでも。

将軍でも。


今日も――

晴れ、ときどき地球だ。


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