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青の軌道カフェ ― 香りは、重力を超えて ―  作者: Morichu
第4章:今日も通常営業

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第106話 午後三時、将軍来店 ― 敬礼より先にコーヒー ―

肩書きが大きい人ほど、

普通の場所では居場所を失う。


〈コメット〉は、

そういう人にこそ向いている。


〈セクター7〉、午後3時。


カフェ〈コメット〉のドアの前で、

空気が一瞬だけ張りつめた。


黒い制服。

肩章。

胸元に並ぶ、やたらと多いバッジ。


――将軍だった。


背後には、

一歩下がって立つ随員が二名。


ジロウが固まる。


「……あの、これ……

 敬礼とか、必要なやつじゃ……」


「いらっしゃい」


リクは豆を量りながら、

いつも通り言った。


将軍は一歩、店内に入る。


「ここが〈コメット〉か」


低く落ち着いた声。


カナが端末を閉じる。


「……将軍、ですよね?」


「そう呼ばれている」


ミナの光が静かに解析する。


『来店理由:

 休憩。

 滞在予定時間:未定』


「理由、ちゃんとしてるな」


将軍はカウンターに立ち、

短く言った。


「コーヒーを一杯」


「どんなのにする」


「……落ち着くやつ」


「それも雑だな」


リクは気にせず、

ドリップを始めた。


随員の一人が、

小さく咳払いをする。


「将軍、時間の管理を——」


「今は不要だ」


随員、黙る。


ジロウが小声で囁く。


「……随員さん、怒られてません?」


「いつものことだろ」


ぽと……

ぽと……


湯が落ちる音。


将軍はそれを見つめながら言った。


「不思議だな。

 ここでは、判断を急がなくていい」


カナが首を傾げる。


「急ぐ必要、あります?」


「普段はな」


ミナが記録する。


『精神負荷、低下。

 要因:香り、温度、雑音』


「雑音?」


その瞬間。


――ガシャン。


ジロウが、

スプーンを全部落とした。


「すみません!!」


将軍は一瞬、目を丸くし……


次の瞬間、

小さく息を吐いた。


「……なるほど。

 これが“雑音”か」


リクがカップを差し出す。


将軍は一口、飲む。


……黙る。


二口目。


「……ここでは、

 肩書きが邪魔だな」


「置いてけ」


「そうする」


将軍は立ち上がり、

一枚のカードを置いた。


「支払いだ」


カナが見る。


「……これ、公式用のカードですね」


「使えるだろ」


「使えますけど……」


「なら問題ない」


去り際、

将軍は一度だけ振り返った。


「敬礼は不要だ」


そう言って、

ごく普通に会釈した。


ドアが閉まる。


沈黙。


ジロウがぽつり。


「……偉い人って、

 普通になりたいんすね」


「人だ」


ミナの光が、やわらかく灯る。


『本日の記録——

 “肩書きは、コーヒーと一緒に外れる”』


肩書きは、

便利だけれど重たい。


〈コメット〉では、

それを一度、カウンターに置いていく。


将軍でも。

偉い人でも。

ポンコツでも。


今日も――

晴れ、ときどき地球だ。


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