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青の軌道カフェ ― 香りは、重力を超えて ―  作者: Morichu
第4章:今日も通常営業

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第105話 午後三時、英雄は入口でつまずく ― ジロウ、外では有能 ―

人は場所によって、

賢くもなれば、どうしようもなくもなる。

それは能力の差ではなく、

たぶん――空気の問題だ。


〈セクター7〉、午後3時。


カフェ〈コメット〉のドアが開く。


ジロウが戻ってきた。


珍しく背筋が伸びていて、

工具箱もきれいに閉まっている。


「……おかえり」


リクが一瞬だけ眉を上げる。


「お疲れっす」


声も落ち着いている。


ミナの光が確認する。


『外部ログ照合。

 ジロウ、第三動力区画にて

 緊急位相崩壊を単独で収束』


カナが目を見開く。


「……単独?」


『評価:迅速・的確・無駄なし』


「……誰?」


ジロウは頭をかいた。


「いやー、向こうだと普通なんすよ。

 指示も明確だし、

 床も平らだし」


「環境のせいにすんな」


「ほんとっす!」


リクはコーヒーを淹れながら言う。


「で、向こうはどうだった」


「はい。

 軌道ずれ0.3秒、

 冷却ライン誤差0.02、

 全部手順通りに戻しました」


ミナが静かに補足する。


『管制室より感謝メッセージ三件。

 うち一件は“天才”表記』


カナが吹き出す。


「天才!?」


ジロウは慌てて手を振る。


「やめてください!

 戻るときに忘れますから!」


「何をだ」


「全部!」


その瞬間。


――ガンッ。


鈍い音。


全員が入口を見る。


ジロウが、

ドア枠に額をぶつけていた。


「……あ」


工具箱が落ち、

中身が床に散らばる。


「痛っ……」


沈黙。


リクが一言。


「帰ってきたな」


ミナが淡々と記録する。


『環境変化による能力低下を確認』


「記録すんな!」


カナは笑いながら言った。


「外では英雄、

 中では通常営業」


ジロウは床に座り込み、

豆を拾いながらぼそっと言う。


「……ここ、落ち着くんすよね。

 落ち着きすぎて、

 頭まで緩むっていうか」


リクはカップを差し出す。


「それでいい。

 外で張り詰めて、

 ここで抜けろ」


ドリップが落ちる。


ぽと……

ぽと……


ジロウは受け取ったカップを見て、

少しだけ笑った。


「……やっぱ、

 オレはここでポンコツっす」


「名誉なことだ」


ミナの光がやわらかく揺れる。


『本日の判定。

 ジロウ:適材適所』


英雄は特別な場所で生まれる。

ポンコツは、帰る場所で許される。


〈コメット〉は今日も、

有能を外に送り出し、

ポンコツを受け入れる。


それで全部、うまく回っている。


今日も――

晴れ、ときどき地球だ。


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