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青の軌道カフェ ― 香りは、重力を超えて ―  作者: Morichu
第4章:今日も通常営業

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第103話 午後三時、静かすぎる ― コメット、小さな事件 ―

いつも誰かがいる場所に、

ひとりいないだけで、

世界は少しだけ落ち着かなくなる。


それは事故でも異変でもなく、

たぶん――

〈コメット〉にとっての「小さな事件」。


〈セクター7〉、午後3時。


カフェ〈コメット〉は、

妙に静かだった。


静かすぎて、

逆に落ち着かない。


リクは豆を挽きながら、

何度目か分からない視線を

空いている席に向けた。


「……やっぱ静かだな」


ジロウは工具を置いて、

カウンターの下を覗き込む。


「静かっすね。

 なんか……音が足りないっす」


「音?」


「はい。端末叩く音とか、

 溜息とか」


「それ、必要か?」


ミナの光が、少しだけ揺れた。


『環境音解析:

 通常より“雑音”が不足しています』


「雑音扱いするな」


それでも、

コーヒーはいつも通り淹れられる。


ぽと……

ぽと……


そのときだった。


――ピコン。


店内端末が、

いつもと違う音を立てた。


ジロウが飛び上がる。


「え、何!?」


「警報じゃねぇな」


ミナが確認する。


『通知です。

 内容……〈コメット〉在室人数、

 通常値より1名不足』


「そんな通知あったか?」


『今、生成されました』


「生成するな!」


ジロウは慌てて店内を見回す。


「え、誰か迷い込んでます?

 オレ数えます?」


「数えなくていい」


だが次の瞬間。


照明が、

ほんの少しだけ暗くなった。


「……暗くね?」


『在室人数減少により、

 空間“活気補正”が低下しています』


「そんな機能いらねぇ!」


ジロウは思わず言った。


「これ……

 カナさんがいないからじゃないっすか」


一瞬、

全員が黙った。


リクはカップを拭きながら、

静かに言う。


「……そうかもな」


ミナの光が、

いつもより柔らかく灯る。


『推定:

 〈コメット〉の安定係数に、

 彼女の存在が含まれていました』


「重すぎるだろ」


「でも、なんかわかるっす」


ジロウは照明を元に戻そうとして、

間違えてBGMを最大にした。


♪♪♪


「うるさい!」


「す、すみません!」


慌てて止める。


一瞬の沈黙のあと、

リクが小さく息を吐いた。


「……よし」


「何すか?」


「今日は、これでいい」


ミナが首を傾げる。


『何を“これで”と判断しましたか』


「静かで、

 ちょっと調子狂ってて、

 でも壊れてない」


ジロウは笑った。


「それ、いつものコメットっすね」


ドリップが落ちる。


ぽと……

ぽと……


いつもより、

少しだけ丁寧に。



その頃。


カナは自室のベッドで、

天井を見ていた。


頭はぼんやりしているが、

端末越しに届く

“騒がしさの欠片”を感じ取る。


(……なんか、やってるな)


想像がつく。


きっと照明をいじって、

余計な通知を増やして、

無駄に慌てている。


それでも――

少し、胸があたたかい。


(……バカね)


カナは小さく笑って、

目を閉じた。


大きな事件は起きなかった。

でも、

ひとりいないだけで起きる

「小さなズレ」は、確かにあった。


〈コメット〉は今日もポンコツで、

少し不安定で、

それでもちゃんと回っている。


欠けた席を気にしながら。


今日も――

晴れ、ときどき地球だ。


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