第100話 百杯目は、だいたい間に合う ― コメット、記念日だけど通常営業 ―
〈セクター7〉、午後3時。
カフェ〈コメット〉は、
今日もいつもと変わらない音を立てていた。
豆が挽かれ、
湯が沸き、
誰かがどこかで、なぜか小さく転ぶ。
「……なんか、区切りじゃねぇか?」
カウンターの奥で、
リクがふと、そんなことを言った。
カナが顔を上げる。
「区切り?」
「ほら……百回目とか、そういうやつ」
ジロウが一瞬フリーズする。
「……え?
今日って……記念日っすか?」
ミナの光が、静かに明滅した。
『確認します。
本日の稼働ログ——
……第100回目に該当します』
一拍。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」
ジロウが頭を抱えた。
「何も準備してないっす!
ケーキも!
イベントも!
なんなら床も汚いっす!」
「床はいつもだろ」
カナは少し笑って、肩をすくめた。
「まあ……〈コメット〉らしいじゃない」
ミナは少し考える。
『記念回における推奨行動:
特別演出、回顧、感謝表明——』
「やめとこう」
リクは即答した。
「いつも通りでいい。
無理すると、だいたいロクなことにならねぇ」
ジロウが恐る恐る聞く。
「……じゃあ、何もしない?」
「する」
リクはポットを持ち上げた。
「コーヒーを淹れる。
それで十分だ」
ドリップが始まる。
ぽと……
ぽと……
その音は、
一話目の頃と何も変わらない。
ミナが解析を続ける。
『特別な異常、検出なし。
重力、正常。
時間、多少あいまい。
店内、概ね平和』
「完璧じゃないけど、上出来ね」
カナがカップを受け取る。
ジロウはしみじみと言った。
「百回もやってて、
まだ普通にバタバタしてるの、
すごくないっすか」
「成長してないってことか?」
「違います!
“続いてる”ってことっす!」
一瞬、静かになる店内。
ミナの光が、少し柔らかく揺れた。
『継続状態、良好。
学習結果:
“完璧でなくても、続く”』
リクはカップを磨きながら言った。
「それでいい。
宇宙も、人生も、コーヒーも」
「雑だけど、納得できるのが悔しいわ」
ジロウは笑う。
「百杯目、
ちょっと薄くないっすか?」
「気のせいだ」
「気のせいっすね」
ミナが記録を確定する。
『今日の香りの記録——
“百杯目は、特別じゃないから特別”。』
窓の外では、
青い惑星がいつも通り回っている。
何も解決していない。
何も失敗していない。
何も完成していない。
でも、ちゃんとここまで来た。
午後三時。
〈コメット〉は、
百回目の今日も、通常営業だ。
今日も――
晴れ、ときどき地球だ。
〈セクター7〉、午後3時。
カフェ〈コメット〉は、
今日もいつもと変わらない音を立てていた。
豆が挽かれ、
湯が沸き、
誰かがどこかで、なぜか小さく転ぶ。
「……なんか、区切りじゃねぇか?」
カウンターの奥で、
リクがふと、そんなことを言った。
カナが顔を上げる。
「区切り?」
「ほら……百回目とか、そういうやつ」
ジロウが一瞬フリーズする。
「……え?
今日って……記念日っすか?」
ミナの光が、静かに明滅した。
『確認します。
本日の稼働ログ——
……第100回目に該当します』
一拍。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」
ジロウが頭を抱えた。
「何も準備してないっす!
ケーキも!
イベントも!
なんなら床も汚いっす!」
「床はいつもだろ」
カナは少し笑って、肩をすくめた。
「まあ……〈コメット〉らしいじゃない」
ミナは少し考える。
『記念回における推奨行動:
特別演出、回顧、感謝表明——』
「やめとこう」
リクは即答した。
「いつも通りでいい。
無理すると、だいたいロクなことにならねぇ」
ジロウが恐る恐る聞く。
「……じゃあ、何もしない?」
「する」
リクはポットを持ち上げた。
「コーヒーを淹れる。
それで十分だ」
ドリップが始まる。
ぽと……
ぽと……
その音は、
一話目の頃と何も変わらない。
ミナが解析を続ける。
『特別な異常、検出なし。
重力、正常。
時間、多少あいまい。
店内、概ね平和』
「完璧じゃないけど、上出来ね」
カナがカップを受け取る。
ジロウはしみじみと言った。
「百回もやってて、
まだ普通にバタバタしてるの、
すごくないっすか」
「成長してないってことか?」
「違います!
“続いてる”ってことっす!」
一瞬、静かになる店内。
ミナの光が、少し柔らかく揺れた。
『継続状態、良好。
学習結果:
“完璧でなくても、続く”』
リクはカップを磨きながら言った。
「それでいい。
宇宙も、人生も、コーヒーも」
「雑だけど、納得できるのが悔しいわ」
ジロウは笑う。
「百杯目、
ちょっと薄くないっすか?」
「気のせいだ」
「気のせいっすね」
ミナが記録を確定する。
『今日の香りの記録——
“百杯目は、特別じゃないから特別”。』
窓の外では、
青い惑星がいつも通り回っている。
何も解決していない。
何も失敗していない。
何も完成していない。
でも、ちゃんとここまで来た。
午後三時。
〈コメット〉は、
百回目の今日も、通常営業だ。
今日も――
晴れ、ときどき地球だ。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
百話書いた、というより、
百回「今日」を迎えただけかもしれません。
完璧でも、計画的でもありませんでしたが、
続いていることだけは、確かです。
〈コメット〉はこれからも、
大きなことはしれっと、
小さな失敗は派手にやりながら、
変わらない日常を続けていきます。
次の一杯も、
その次の午後も、
またここでお会いできたら嬉しいです。
今日も――
晴れ、ときどき地球だ。




