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青の軌道カフェ ― 香りは、重力を超えて ―  作者: Morichu
第3章:記憶の星図

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100/109

第100話 百杯目は、だいたい間に合う ― コメット、記念日だけど通常営業 ―

〈セクター7〉、午後3時。


カフェ〈コメット〉は、

今日もいつもと変わらない音を立てていた。


豆が挽かれ、

湯が沸き、

誰かがどこかで、なぜか小さく転ぶ。


「……なんか、区切りじゃねぇか?」


カウンターの奥で、

リクがふと、そんなことを言った。


カナが顔を上げる。


「区切り?」


「ほら……百回目とか、そういうやつ」


ジロウが一瞬フリーズする。


「……え?

 今日って……記念日っすか?」


ミナの光が、静かに明滅した。


『確認します。

 本日の稼働ログ——

 ……第100回目に該当します』


一拍。


「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」


ジロウが頭を抱えた。


「何も準備してないっす!

 ケーキも!

 イベントも!

 なんなら床も汚いっす!」


「床はいつもだろ」


カナは少し笑って、肩をすくめた。


「まあ……〈コメット〉らしいじゃない」


ミナは少し考える。


『記念回における推奨行動:

 特別演出、回顧、感謝表明——』


「やめとこう」


リクは即答した。


「いつも通りでいい。

 無理すると、だいたいロクなことにならねぇ」


ジロウが恐る恐る聞く。


「……じゃあ、何もしない?」


「する」


リクはポットを持ち上げた。


「コーヒーを淹れる。

 それで十分だ」


ドリップが始まる。


ぽと……

ぽと……


その音は、

一話目の頃と何も変わらない。


ミナが解析を続ける。


『特別な異常、検出なし。

 重力、正常。

 時間、多少あいまい。

 店内、概ね平和』


「完璧じゃないけど、上出来ね」


カナがカップを受け取る。


ジロウはしみじみと言った。


「百回もやってて、

 まだ普通にバタバタしてるの、

 すごくないっすか」


「成長してないってことか?」


「違います!

 “続いてる”ってことっす!」


一瞬、静かになる店内。


ミナの光が、少し柔らかく揺れた。


『継続状態、良好。

 学習結果:

 “完璧でなくても、続く”』


リクはカップを磨きながら言った。


「それでいい。

 宇宙も、人生も、コーヒーも」


「雑だけど、納得できるのが悔しいわ」


ジロウは笑う。


「百杯目、

 ちょっと薄くないっすか?」


「気のせいだ」


「気のせいっすね」


ミナが記録を確定する。


『今日の香りの記録——

 “百杯目は、特別じゃないから特別”。』


窓の外では、

青い惑星がいつも通り回っている。


何も解決していない。

何も失敗していない。

何も完成していない。


でも、ちゃんとここまで来た。


午後三時。

〈コメット〉は、

百回目の今日も、通常営業だ。


今日も――

晴れ、ときどき地球だ。


〈セクター7〉、午後3時。


カフェ〈コメット〉は、

今日もいつもと変わらない音を立てていた。


豆が挽かれ、

湯が沸き、

誰かがどこかで、なぜか小さく転ぶ。


「……なんか、区切りじゃねぇか?」


カウンターの奥で、

リクがふと、そんなことを言った。


カナが顔を上げる。


「区切り?」


「ほら……百回目とか、そういうやつ」


ジロウが一瞬フリーズする。


「……え?

 今日って……記念日っすか?」


ミナの光が、静かに明滅した。


『確認します。

 本日の稼働ログ——

 ……第100回目に該当します』


一拍。


「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」


ジロウが頭を抱えた。


「何も準備してないっす!

 ケーキも!

 イベントも!

 なんなら床も汚いっす!」


「床はいつもだろ」


カナは少し笑って、肩をすくめた。


「まあ……〈コメット〉らしいじゃない」


ミナは少し考える。


『記念回における推奨行動:

 特別演出、回顧、感謝表明——』


「やめとこう」


リクは即答した。


「いつも通りでいい。

 無理すると、だいたいロクなことにならねぇ」


ジロウが恐る恐る聞く。


「……じゃあ、何もしない?」


「する」


リクはポットを持ち上げた。


「コーヒーを淹れる。

 それで十分だ」


ドリップが始まる。


ぽと……

ぽと……


その音は、

一話目の頃と何も変わらない。


ミナが解析を続ける。


『特別な異常、検出なし。

 重力、正常。

 時間、多少あいまい。

 店内、概ね平和』


「完璧じゃないけど、上出来ね」


カナがカップを受け取る。


ジロウはしみじみと言った。


「百回もやってて、

 まだ普通にバタバタしてるの、

 すごくないっすか」


「成長してないってことか?」


「違います!

 “続いてる”ってことっす!」


一瞬、静かになる店内。


ミナの光が、少し柔らかく揺れた。


『継続状態、良好。

 学習結果:

 “完璧でなくても、続く”』


リクはカップを磨きながら言った。


「それでいい。

 宇宙も、人生も、コーヒーも」


「雑だけど、納得できるのが悔しいわ」


ジロウは笑う。


「百杯目、

 ちょっと薄くないっすか?」


「気のせいだ」


「気のせいっすね」


ミナが記録を確定する。


『今日の香りの記録——

 “百杯目は、特別じゃないから特別”。』


窓の外では、

青い惑星がいつも通り回っている。


何も解決していない。

何も失敗していない。

何も完成していない。


でも、ちゃんとここまで来た。


午後三時。

〈コメット〉は、

百回目の今日も、通常営業だ。


今日も――

晴れ、ときどき地球だ。


ここまで読んでくださって、ありがとうございます。


百話書いた、というより、

百回「今日」を迎えただけかもしれません。

完璧でも、計画的でもありませんでしたが、

続いていることだけは、確かです。


〈コメット〉はこれからも、

大きなことはしれっと、

小さな失敗は派手にやりながら、

変わらない日常を続けていきます。


次の一杯も、

その次の午後も、

またここでお会いできたら嬉しいです。


今日も――

晴れ、ときどき地球だ。


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