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第四話「元メイドの占い師」

リラとキースは先にミラから受け取ったメモに書かれた住所に足を運ぶ。解雇では

なく、自分から退職したメイドの名をミッシェル・レインウォーター。彼女は

深い青緑色の髪の女性。特別目立ったことはしていなかったらしいが、突如として

辞職届を出し、バルジ・ラルガスのもとを去った。ミラは何度か彼女と話を

したことがあるそうだ。彼女は何か鍵を握っているかもしれない。


「あの男、随分と上手く敵意を隠していた」

「ミラの事?」


キースは自然な流れでリラの首を掴んだ。


「ふぎぃ!?何?」

「敵意も無く、急所を狙った一撃だ。俺も完璧に避けられる自信は無い」


パッと手を離し、キースは先の短い戦闘を思い返す。互いに手を抜いていた。

あの家を破壊するわけにも行かず、そして相手は使用人の立場。主人の身を

守ることを最優先するものだ。少なくとも、その時までは…。


「だよね。何かありそうだなって思ってたんだけど…」

「感づいたのは流石だな、リラ」


街中の大型モニターに速報ニュースが流れた。轟々と燃え上がる無慈悲な

赤い炎。大きな建物を丸呑みにしている惨事。リポーターが現状について

説明をする。


『こちら共和国評議会議員バルジ・ラルガスの邸宅前です。黒煙が上がっている

という通報により現在、消防隊が消火作業にあたっていますが未だに炎の勢いは

衰えていません。消防隊員の話によりますと複数人の焼死体が発見されたとの

事で、バルジ・ラルガス議員と連絡が取れていないとのことです。現在、原因に

ついては調査が進められています。なお、議員には贈賄収賄や詐欺などの容疑も

掛かっており―』

「え、嘘…!?」


バルジ・ラルガスと彼のもとで働いていたメイドたちが火災に巻き込まれ死亡

したと思われる。モニター越しでも火の勢いがどれほどか、よく分かる。

バルジはあちこちから恨みを買っているように見えた。誰かが放火して、明確な

殺意を持って火事を起こした可能性は十分に考えられる。豪邸に戻り現場を確認

するべきか、今は先にミッシェルと言う女性のもとへ向かうべきか。


「―お嬢さん」


深く悩むリラに一人の老人が声を掛けて来た。長い髭を生やした老人はリラに

封がされた手紙を渡した。


「メイドさんからね、オッドアイの女の子に渡して欲しいと頼まれてしまったんだ。

確か、リラと言う子に渡して欲しいと。合ってるかね?」

「はい。私がリラですけど、一体どうして…」


老人が笑った。


「こう見えても配達員じゃからな。届ける物はしかと配達したぞ?お嬢さん、

()()()()()()()()()()


そう言い残して老人は何処かへ歩き去ってしまった。手紙は丁寧に封をして

ある。開封し、早速中身を確認すると文字は乱雑で、小刻みに震えている。

短い時間で焦って書かれたものだろう。乱雑でも読むことが出来る字。手紙

というよりも箇条書きのメモのような内容。


『バルジ様がミラに殺された 22:13

他のメイドたちがミラに殺されていく 22:28―』


今の時間は翌日の9時過ぎだ。殺害後、暫くは大人しくしていたのだろう。

9時の時点でニュースに取り上げられる火災。殺害現場で一夜を過ごすなんて

正気の沙汰では無いが、本人を問いただした方が早いかもしれない。最後に

慌てて書いた字が残っている。


『ミッシェルが危ない!』

「このメイドもミッシェルと言う人物と仲が良かったのかもな」

「うん。この人、殺される前まで逃げ切ってたんだ。私たちが真実を

見つけられるように証拠を残してくれた…。凄い人だよ」


自分の死が迫る中、少しでも多くの情報を探偵に託すために恐怖と焦りと

戦いながら残した証拠。これを手放すわけには行かない。ミラと言う男、

彼が黒であることは分かった。どれもこれもミラ本人と、そしてミッシェルと

いう女性と話せば全て解明されるはずだ。


「ここにいれば良いんだけど」


占い師として開業したらしい。ここは占いの館オトヒメと言う場所だ。

海をテーマにした外装と内装。奥には占い師が待ち構えていた。


「いらっしゃい。占いを希望かしら?」


青いベールで顔は良く見えない。彼女がこの館の占い師らしい。一つ

試しにキースが問いかけに応じた。


「あぁ。俺を占って欲しい」

「貴方なのね?占いを信じているの?」

「内容次第だな」


そう答えると彼女はフフッと笑った。


「一目見た時から分かっていたわ。貴方の相方に感謝することね」


彼女は隣に座るリラを一瞥した後、水晶を撫でるように手を翳す。

キースを占い、この先に彼に待ち受ける未来を予想する。占いは

参考にする程度で、未来は簡単に変わる。悪い方にも、良い方にも。

占い師はそう釘打って占いを開始した。


「貴方ほど苦しんでいる客は初めて見たわ。だからアドバイス。償うべき

罪から目を背けないことは正しいわ。だけど“今”を見失ってはダメよ」


ベール越しに彼女はキースを真っ直ぐ見据える。


「貴方の壊れた心を癒してくれた子の存在を、そして今までに出会った

人たちとの思いで、忘れないで頂戴」


占いによる助言を聞いたキースのポーカーフェイスは一向に変化しない。

だが何処か図星を指されたような表情に思える。


「で、貴方達は占いをして貰うために来たわけじゃないんでしょ?」


彼女はベールを脱いだ。


「知ってるかもしれないけど名乗っておくわ。ミッシェル・レインウォーター。

元バルジ・ラルガスのメイド、来てくれて助かるわ。宝石探偵さん」


ミッシェルはリラに目を向けて、そう言った。



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