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第三話「キースと従者」

バルジ・ラルガスは彼の素性を全く理解せずに軽い気持ちで雇った。

というのも共和国の裏には表では出来ないような違法賭博が行われる。

噂だけはリラも仕事上、耳にしたことがある。人と魔獣の戦いは命を

失う事は必至。人と人の勝負ですら、金持ちが賭け事に利用する。

後者の闘技場に現れる闘技場荒らしはとある一族の人間らしい。一人では

無く、その者は殺し殺される場所にも嬉々として飛び込む。大金が動く

違法賭博にバルジもハマっていたらしい。そんな中でたまたま見かけた

男の実力を高く評価し、バルジは彼を雇うことに成功した。学もあり、

常識もある。


「ッ!?」


リラも目を丸くする。キースは容赦なく、黒いスティレットを突き刺した。

一瞬だがミラの体が動かなかった。その絡繰りはキースの魔眼。彼の眼を

見ていたミラはまんまと術に嵌まる。規格外な人間だ。この結果になることは

承知の上で仕掛けた先制攻撃。心臓を穿つはずの武器は肌に触れただけで

止まっている。力を込めているにも関わらず深く刺さっていかないのだ。

キースの手首を掴んだミラは不敵な笑みを浮かべる。


「じゃあ、次は俺の番ッ!」


キースの踏ん張りも空しく、彼の体が振り回され地面に叩き落された。更に

追撃がキースを襲う。地面に大きなクレーターが出来る威力で踏みつける。

ミラの眼は下では無い他の方向に向けられている。黒い靄が別の場所に

集まり人の形になった。キースがその場に立っていた。


「反則だろ、それ」

「どんな戦い方でも、と言ったのはお前だろう。俺も無傷というわけでは無い。

叩きつけるだけでなく、壊すつもりで踏みつけて来るとは思ってなかった」


互いに間合いを測るように歩き出した。この攻防でミラの素性は分かった。


「エリックという姓は嘘。お前は、サムソン家の人間。随分と規格外な噂ばかり

だったが、どれも嘘では無さそうだ」


キースは武器を手放し、両手を挙げた。敵意の無い相手に対して、苛烈な

事をする気は無いらしくミラはその降参宣言を受け入れた。バルジとしては

面白くない終わり方らしいが、このような事に関しては従者であるミラの方が

上らしい。別れ際、ミラはキースたちが追う指輪とそれに関する情報を伝える。


「ありゃあ盗品だぜ。俺だけじゃねえ。兄弟が全員それぞれの依頼で

動いている。俺より厄介な奴が敵になるかもな」


キースに手渡されたメモには住所が書かれていた。


「助かる」

「礼は今日の続きで、な」

「お前らと戦ったら、命が幾つあっても足りない」


リラとキースが豪邸を離れた後、事は動き出す。夜になった豪邸ではメイドも

眠りに就いている。バルジのもとへ彼はやって来た。


「どうしたのかね」


バルジは心底彼を気に入っていた為に何も警戒していなかった。近づく彼が

何をしようとしているか分からなかった。背後に回られ、首に腕が巻き付く。

普通の人間が抗うことなど出来ない。脱出すらも出来ないだろう。正しい

抜け方というものがあるが、それすらも己の腕力でねじ伏せることが

彼には可能なのだ。彼の拘束を外せるのは彼と同じ家の人間ぐらいだろう。

締め上げた上に首の骨が破壊された。惨劇は一夜にして行われた。メイドも

全員殺害されている。最後の一人になったメイドは上の階へ逃げ込み、扉に

鍵を閉めつっかえ棒を置いた。ベッドやら机やらを引っ張り出して

バリケードを作り出し、震える手で惨劇の内容を書き留める。


「お願い…お願いします…探偵様!どうか―」


バリケード諸共扉が吹き飛ばされた。せめてもの慈悲、一撃で苦しめず彼女は

殺された。彼女が最後に残したものを彼は知らなかった。これのお陰でリラは

惨劇の真実に辿り着くのだ。力なく倒れるメイドを寝かせ、男は何処かの

誰かに連絡をする。


「容赦無いな、アンタ。家ごと証拠隠滅か。構わねえけどさ。依頼された通り、

でも証拠を握って逃げた奴がいる。どうする?…オーケー、あ、でも失敗しても

怒らないでくれよ?少しばかり厄介な障害があるんでね」

『君が厄介だと思う敵がいるのかね?正統な本家だろ。当主の最高傑作の一人、

ミラ・サムソン。君たちのやり方に口は挟まないから安心しなさい』


サムソン家は明確な敵としてリラたちの前に立ち塞がる。ミラと言う男は

敵意を隠すことに特化しており、その部分を当主も高く評価している。


『あぁ、そういえば他にも連絡はしてあるのだがね。宝石探偵なる奴の

眼球を回収して欲しいのだよ』

「眼球?」


豪邸は赤い炎に包まれ、焼け落ちてしまう。それを背にして、ミラはつい

先ほど探偵と名乗っていた少女を思い浮かべた。


「なぁ、その宝石探偵ってのは、もしかして青と緑のオッドアイか?」

『知り合っていたのか?』

「まぁな。努力はするが、期待するなよ?最高傑作とか言われてるが、俺は

他よりは弱いぜ?シリウスやレグルスはどうしたんだ?」


特に当主が気に入っているのはシリウスとレグルスの二人。ミラも大柄な

体躯。一族の子の中で一番背が高い。彼と同じ身長なのがシリウス。

だが二人は連絡が取れないらしい。


「アイツの事だ。地下を荒らし回ってるんだろ。レグルスの方は分からん。

サムソン家の中じゃ一番らしくない性格だしな…。レグルスは兎も角、

シリウスを動かしたいなら、上等な餌を用意してやった方が良いぜ」

『上等な餌?』


ミラたちを雇った人間は電話越しに首を傾げた。シリウスは特に当主と

近い性質を持つ。自分と同等か、それ以上の猛者との戦いを心の底から

欲する。金や名誉の為ではない。それだけの実力者と戦いたいだけだ。


『なるほどな…。彼の扱いは難しそうだ』

「そういうこった。それじゃあ、俺は敵らしく正義の味方を殺しに

行きますかねぇ」



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