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《ブイチューバーにされる展覧会》その7

あと2、3話ぐらいでこの章は完結しそうです。

「……ッ!」


 同時に奈々子が振り返って駆けだす。賽銭箱の前にあった、充希だったノートパソコンを拾い上げた。


「彼女を捕まえろ! ブイチューバー達!」


 佐々木が奈々子を指さす。すると、綺麗に境内を埋め尽くすノートパソコンが、一斉に画面の灯りを点す。

 電源が入り、機械音を発した。そして画面からにゅるりと、人間の顔が出てくる。


(な、ウソウソウソ、マジかよ……⁉)


 人間は次々とパソコンから顔を出していく。メイドやドレスなどの仮装をしていたり、獣耳だったり、動物そのものだったり、それどころか人間と表現するには姿形がまるで違う異形の存在までいる。

 ブイチューバー。パソコンから出てくる人間を呼称するには、その言葉が適していた。

 ブイチューバー達が、呪いのビデオのように、這いつくばって画面から身を乗り出し始めていた。


「【この場の全員の身体! そこに止まれ! パソコンから出るなァ!】」


 必死に叫ぶ奈々子だが、ブイチューバー達には能力の効果が表れない。


「(やっぱり効かない!)あぁクソ……もうッ! コナクソッ‼」


 奈々子が鳥居を目指して再び走り出した。参道を全速力で駆け抜ける。途中には佐々木がニッコリと立ちはだかる。


「うおおおッ‼」


 バシンッ! そのままの勢いで、奈々子は持っていたパソコンをフルスイング。それは佐々木の顔面に直撃して、全身が横へと吹っ飛んだ。

 奈々子は構わず走る。鳥居を潜って、そのままホール出口に一直線に駆け抜け、外へと逃げていった。


「痛いな……もう、荒っぽいんだからぁ。まあいいや、これもブイチューバーの為と思えば」


 殴られた頬を摩りながら、ヨッコイショと佐々木が立ち上がる。


「……………逃がしませんよ?」


 佐々木は呟いて、ブイチューバー達が一斉に、ゾンビのように出口へ歩き出した。


 ☆


「クソッ! 開かない! なんで鍵かかってんの!」


 展示場の中央エントランス。奈々子が扉を開けようとするが、何故か鍵がかかっていた。入ってきた時、扉は全開で開放されていた筈なのに。


(どうする、自動ドアじゃないし、多分能力じゃ解錠出来ない)


 後ろを振り向く。まだブイチューバー達がここへ来るのも時間の問題だろう。


(……クソッ! どこか隠れる場所に!)


 奈々子は取り敢えず走る。先程いたホールから遠くの場所まで、必死になって逃げた。

 そして、通路の脇にトイレを見つける。急いで入り、女子トイレの個室に隠れた。


「ハァ……ハァ。どうする、どうするどうするマジでどうする……っ!」


 息を整え自問自答。この状況を打破する方法はあるか、全速力で脳をフル回転させる。

 外へと逃げたい。だが玄関口からは無理。他の出入り口も恐らく閉まっている筈。佐々木の仕業だろう。

 そうなると別の場所を探すしかなさそうだが、奈々子はこの施設の事は大まかにしか知らない。フロアの何処に、何があるのか。正直詳しい知識がなかった。

 だが出口を悠長に探すのは無理だ。もう流石にブイチューバー達が外をうろついているだろう。迂闊にチンタラ探せない。


「……………………」


 奈々子は脇に抱えたパソコンに目をやる。咄嗟の判断で持ってきた、充希なのであろうノートパソコン。今のところ、何も異常はない。外に出られない以上、まずコッチを解決するべきだろうか。というかそれしか行動出来ない。

 パソコンを便器に置いて、開く。電源を入れる。一間あって、画面が明るくなった。


「……………………!」


 すると、画面に映し出されたのは、充希だった。

 真っ白な部屋で、ポツンと一人立っていた。無表情でいる。


「みつ……き?」


 だが、姿が異質だった。まず猫耳が生えている。そして着物を着ており、目の色も青色で、そもそも髪色が黒ではなく亜麻色で、これじゃあまるで…………。


「な……なこ……ちゃん……」


 か細い声で、充希のようなソレが呟く。


「充希? 充希!」


「ななこ……ちゃん、も……………」


「ねえ充希! 聞いてるの⁉」


 奈々子が呼びかける。しかし、充希は応える事はなく。


「――――――ブイチューバーになろうよ~~~~~~~ぉぉ‼」


 突然パソコンから上半身を飛び出し、奈々子の首をギュッと掴んだ。


「ッが……ァ⁉」


 力強く、殺意の籠ったその手で首を絞める。


「ブイチューバー、いっしょになろ~~~!」


「ナニ……して……ッぁ⁉」


 すかさず手を退かそうと充希の手を掴む。だが想像以上に力が強すぎる。

 いつもの充希では、いや、女の握力では決してない。


(引き剥がせない……ッ)


「なろう? なろう? ブイになろうぉ~ななこちゃ~ん?????」


 どんどん首が閉まっていく。尚も充希は無表情。奈々子が悶絶しながら脚をばたつかせる。眼からは苦しさのあまり一筋の涙が零れた。


 ――――――それから、やがて、息が、出来、無く、なって……………。


「や、め…………て………………」


 視界がぼやけ始め。徐々に全身に力が入らなくなり、


「み……つ、き…………………」


 そして。


「―――――ッ‼」


 ―――――画面から霜月風牙が出て来て、充希を奈々子から引き剥がした。


「……がはぁ‼ ゲホッ、ゲホッ‼ …………〝あ?」


 やっとの想いで呼吸ができて、奈々子はへたり込んだ。息を整え、すぐにパソコンをのぞき込む。そこには暴れる充希を抑え込む風牙の姿が。


「なんで、ここに……」


「…………アンチコメントをしてッ‼」


「えっ」


 画面の風牙の叫びに呆気を取られる。


「ブイチューバーに変えられた人間を元に戻すには批判してショックを与えるしかないんです! 早くキーボードを打って! 僕がこの子を抑え込んでるうちに!」


「は………は?」


「何でもいい‼ 早く打ってッ‼」


 奈々子は困惑しながらも、しかしすぐに行動に移した。


「………クソッ、本当にクソッ、どうなってんのマジで!」


 キーボードを全速力でタイピング。


「『このクソボケ三太郎がッ!』」


 いままでの理解不能な状況に対しての鬱憤を込めて、怒り任せにそう打った。

 その途端だった。暴れていた充希がピタリと止まる。

 恰好がチンケな猫耳娘から普段の姿に戻っていき、ビューンと音がしたかと思えば、画面から飛び出し、勢いよくトイレの壁に激突した。


「ぶべッ! い、イテてぇ……」


「充希!」


「うぅ……え、奈々子ちゃん? え、なんでトイレ? 私、確か自分の部屋で寝てたはずじゃ……」


「あ、あぁ……良かったぁ、良かったぁ……!」


「ん? んん???? ナニ??????」


 充希は状況が理解できていないようで、奈々子に抱き着かれながら困惑する。


「戻ったようで良かったです。奈々子さんに従妹さん、怪我は無いですか?」


「って、え? 風牙クン⁉ え、嘘なんで生配信……………じゃない⁉ え、今私達に話しかけた⁉ え、なんで⁉ ヤバッ、ヤバいよ奈々子ちゃん⁉ これヤバいよ⁉」


 充希は推しに話しかけたというオタクとして至高の行為を体験し、結構滅茶苦茶に取り乱した。

 取り合えず、奈々子は「落ち着け」と肩を叩く。そして風牙を向く。


「助けてくれてありがとう……なんですが、何故助けてくれたんです? 貴方は佐々木の味方じゃないんですか?」


 画面に映る風牙は首を横に振った。


「違います。僕は君たちの味方です。信じて下さい」


「いや、別に疑っては。―――――ん? 待って下さい。もしかして貴方も佐々木の力でブイチューバーに?」


 風牙が、今度は縦に首を振った。


「…………彼女の〝神様〟とやらに与えられた能力。その力でブイチューバーに変えられた人間は、基本彼女の言いなりです。でもその能力は完全じゃない。言いなりにならなかった不完全のブイチューバー達も、僅かですがいるんです。まぁ普段は洗脳されている振りをしながら電脳世界にいますが……」


「あー……えーと、よく分かりませんがつまり、貴方は佐々木の味方のフリをしていた?」


「そう思ってもらえれば。…………僕達は佐々木の悪行を止めたい。そして今、そのチャンスが来ているんです」


「えっちょっと、なんで二人共仲良さそうなの? ていうかこの状況ナニ?」


 充希が言う。風牙は残念そうに応えた。


「すみませんが説明してる時間はありません。二人共、力を貸してほしい。今ならまだ今回のイベントでブイチューバーになった人々を元に戻せます」


「え、それって」


「―――僕達に作戦があります」


 風牙が胸を手に当て話す。

 対して、奈々子は目を細めた。


「…………達?」


感想等、よろしくお願い致します。

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