表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/33

《ブイチューバーにされる展覧会》その4

 翌日。つまりブイチューバー展覧会二日目。

 二人は昨日と同じ時間帯に来場した。推しのステッカーは当たらず、充希は落ち込んだ。


 昨日同様、大勢の人々が来場しており賑わっている。そして昨日同様二人でブラブラ、取り敢えず歩き回っていた。

 充希があるブースを見つけて立ち止まる。凄く長い行列が出来ていた。


「あ! ブイチューバー体験ブースだ! 昨日行きそびれちゃったけど滅茶苦茶行きたかったんだよね! ちょっと並んでくるけど奈々子ちゃんも行くでしょ⁉」


「いやいかん」


「そういうと思った行ってきますヤッフゥ~‼」


 テンションⅯAⅩの充希は飛びつく様に目標へ並びに行った。


(相変わらず元気だな。どんだけ好きなんだブイチューバー)


 心中呆れながら、昨日同様、一人ぽつんと周囲を散歩し始める。

 さてさてどうしたものか。何か暇を潰せそうなものは…………思考を巡らせていると、背後から声を掛けられる。


「あ、奈々子さんじゃないですか」


 振り向くと、昨日会った運営スタッフの佐々木が手を振っていた。


「え、あ、どう……」


 ―――瞬間、挨拶を返そうとした奈々子の脳裏には、神社の夢がチラついた。


「…………………………」


 ぴたりと動きが止まる。

 夢だとは分かっている。が、境内でコッチを向いた佐々木の顔が。不気味な表情で意味不明な問いかけをしてくる姿が。フラッシュバックして目前の佐々木と重なった。


「あー……どうしました?」


「…………えっ、あぁいえ。こんにちは」


 佐々木に呼ばれて我に返り、軽く会釈した。


「えーと、偶然……ですね。また会うなんて……」


「本当ですね。今日も従妹さんと?」


「ええまぁ。今はブイチューバーを体験? 出来るみたいなブースに行ってますけど」


「あぁ、ブイチューバー体験ブース。あそこは人気ですし結構混んでいたでしょ?」


 にっこりと微笑みながら聞いてきたので、こちらも愛想笑いして頷く。


「アハハ、そうですねぇ。結構時間かかりそうで、どう暇潰そうか悩んでたトコで……」


 すると、佐々木は「そうなんですか」と少し驚いてから、また微笑んで「じゃあ」と提案する。


「それでしたら、対談ブースに行きませんか? 人気ブイチューバー達と一対一でお話出来るブースで、昨日よりかは混んでないので、暇つぶしにはなると思いますよ」


「対談ブース………」


「無理にとは言いませんけど、どうでしょうか?」


 確か昨日、充希が最初に並びに行ったブースだ。右腕だけナンチャラ太郎だか、将棋だったかオセロだったかで優勝したブイチューバーと話せると息巻いていた筈。

 そしてブイチューバー体験ブースと同等ぐらいトンデモない行列だった筈だが…………。


(まぁでも、暇だしなぁ)


 特にやることもないので承諾する。


「あまり並んでないのなら………まぁ、行ってもいいかもです」


「良かった! でしたら案内しますね」


 佐々木が両手を合わせて、無邪気な子供みたく笑った。


 ☆


 ブースに案内された。行列は出来ていたが、本当に昨日程混んでいなかった。

 すぐに順番が回ってくる。簡易的に造られた個室が五つあって、佐々木が言うには「五つの個室に順々に案内されて、各部屋に一人ブイチューバーがいる。話せるブイチューバーの数は二十人。どんなブイチューバーに当たるかは時間ごとに違う。

そのため推しと話せるかは運次第だそう。正直どうでも良かった。


 それから、個室の一つに案内された。個室にはパイプ椅子が一つと、木製の長いテーブルが一つ。そしてテーブルの上にはマイクと、パソコンが設置されていた。

 マイクを持って椅子に座るようスタッフに指示されて扉が閉まる。それから数秒一人で待っていると、


「お待たせ~! 世界の平和はあーしが救う! ヒーローギャル系ブイチューバーのHERO美です☆」


 と、パソコンの画面にブイチューバーが映し出された。HERO美と名乗った彼女は、首に巻いたチョーカーと、カールしてふわっふわな長い金髪が印象的だった。


「え、つーかお姉さんめっちゃ美人じゃね? うぇ~羨ましい~。え、つか肌綺麗過ぎて、え、保湿何使ってんの?」


「え、あ~……アハハ……」


 そして凄くフレンドリーだった。言葉を換えれば、馴れ馴れしかった。

 と、こんな感じでブイチューバー達と雑談していく。会話時間は5分で、内容は世間話がほとんどで、奈々子は適当に駄弁っていた。


 因みに、他にどんなブイチューバ―と話してたかというと、


「丸眼鏡大好き! 丸眼鏡系ブイチューバーの長谷川メガ男です! お姉さん丸眼鏡似合いそうですね!」


 全身に無数の丸眼鏡を身に付けた変人男。


「レモン系ブイチューバ―の、ミカンです! 好きなモノは柿です!」


 と叫ぶ梨の見た目のキャラクター。


「め、面食い猫耳ブイチューバーの秋野ですぅ……ぐへへ。お姉さん顔良いですねぇ……れ、連絡先交換しませんかグヘへ……」


 変態猫耳女。

 こんな感じで、どのブイチューバ―も、とっても個性的だった。


(ちょっとちょっと、なんか想像以上にヤバいのしかいないけどブイチューバー⁉ なんで変人しかいないの⁉)


 最後の個室でそう思いながら待っていと、パソコンの画面にキャラクターが映し出された。


(うげっ! 来た! 早く帰りてぇ!)


 一瞬身構えるが、すぐに緊張は解かれる。


「どうも、皆様の執事系ブイチューバーこと、霜月風牙です!」


「え、風牙って……」


 その蒼くサラサラ揺れる髪に、特徴的なタキシードと白手袋。充希が推しているブイチューバー・霜月風牙その人だ。


「こんにちはお姉さん。今日はよろしくお願いします」


 爽やかな声で青年は丁重に挨拶。奈々子もそれに応じる。


「あ、ど、どうもご丁寧に」


「アハハ、緊張してますか?」


「き、緊張っていうか……前の四人、いや三人と梨? が結構個性的だったので……面食らっちゃって」


 充希の推しだというのもあるが。


「あーなるほど。そうですよね、奇抜な方が多いですよねぇ~」


 風牙がこくこく頷きながら笑った。奈々子も釣られて苦笑い。


「お姉さんお名前は? お一人で要らしたんですか?」


「従妹と来ていて、私は付き添いで。名前は奈々子です」


「そうですか。じゃあ、お二人共ブイチューバーが好きなんですね」


「あー、従妹は確かに好きなんですけど、私はあんまり知らなくて……」


「おーなるほどなるほど。じゃあこの博覧会で好きになってくれると嬉しいですね」


 風牙はそう言って、もう一度笑った。


 その後、奈々子と風牙は楽しく雑談した。世間話は勿論、普段ブイチューバーの私生活や、生配信で気を付けている事など、ちょっとした豆知識まで教えてくれた。

 風牙は執事モチーフだからなのか物腰柔らかな対応だった。奈々子も前までの4人が強烈だった事もあり、風牙とは肩肘張らず自然に会話をすることが出来た。


 それから、5分があっという間に過ぎた。


「もうすぐで終わりですね。いや~奈々子さんとお話出来て楽しかったです」


「私もゆっくり話せて良かったです。昨日も来たんですけど、色々とブイチューバーの事が知れて満足です」


「あ、昨日も来てくれたんですか。大丈夫ですか? 疲れてないですか?」


 心配そうに聞いてくる風牙に、奈々子が指で視力検査のマークを作った。


「ハハハ、まぁちょっとだけ」


「あー、じゃあ今日は早く寝ないとですね~」


「そうします。一応明日も従妹に付き添う事になってるんで」


 奈々子が溜息交じりに呟く。すると、


「〝明日〟ですか?」


 スッ。と表情が消え、低いトーンで聞いてきた。


「そうなんですよ。なんか従妹が三日間のチケット買っちゃったみたいで、仕方な………」


「――――来るな」


 話している途中、まるで子供を叱るように、風牙が静かな怒声を放った。


「えっ」


「絶対に来るな」


「……え?」


 風牙は、物凄い形相で睨んできている。その意味が分からず状況の理解が遅れる。


「なに……を、」


 言っているのか。そう聞こうとしたところで、


「はーい奈々子さん、五分経ちましたので終わりでーす」


 ――――ガチャリ、スタッフの佐々木がドアを開けた。外のムワッとした熱気が個室に入り込み、すぐに充満した。

 奈々子は反射的にドアを見やって、すぐにパソコンの画面に向き直った。


「今度は僕の生配信も見てくださいね。それじゃあまた」


 …………今まで何事もなかったかの様に、風牙は笑っていた。


 それからは充希と合流して「遅い」と言われ、昨日同様、色んなブースを二人で回った。そして展示場を後にした。

今日はあともう一個だけ投稿します。

ブイチューバー博覧会編は次々回には佳境に入り、多分明日完結します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ