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《ブイチューバーにされる展覧会》その3

 ブイチューバー展覧会を終了時刻まで楽しんだ二人は無事自宅へと帰還。着いた頃には日は落ちていた。

 二人はすぐにご飯を食べて、風呂に入って。リビングのテーブルにノートパソコンと2Lコーラとポテトチップスなどお菓子諸々を配置して、そしてソファに座り、


「という訳で、これから風牙クンの雑談配信を観ようッ‼ ね、奈々子ちゃんッ‼」


「……………えぇ、めっちゃ元気ぃ」


 午後八時半。充希の推し『霜月風牙』の雑談生配信を観ようとしていた。


「ほらほら! テンション上げて奈々子ちゃん! もうすぐ始まるよ生配信!」


「いやいや、別にアンタの推しに興味ないんだけど……」


 今日の博覧会でテンションぶち上げ中の充希とは違い、人ごみに疲れ果てた奈々子は嫌そうに溜息を吐いた。


「まあまあそう言わずに一緒に見ようよ~。この機会に奈々子ちゃんにもブイチューバーを好きになってもらいしさぁ。二人で風牙クンの話したいの~」


「そう言われてもなぁ」


「だって奈々子ちゃん帰りの電車の中で『ブイチューバ―ちょっと興味出たかも』って言ってたじゃん! 今しかないって好きになるチャンス!」


 グイグイ顔を近づけての勧誘。流石はオタクというべきなのか、好きなモノへ共感して欲しい精神が凄まじい。そしてうっとうしい。

 奈々子は帰りの満員電車を振り返り、自分の発言に素直に後悔した。


「確かに言ったは言ったけどさぁ……」


「今日の雑談はブイチューバー展覧会の感想を話すんだって! 楽しみだなぁ~……って!もう始まるよ奈々子!」


 充希が慌ててパソコンに視線を向ける。すると、蒼い髪に執事服を着た、優男のキャラクターが画面に映し出された。


『ハイどうも。皆様の執事系ブイチューバーこと、霜月風牙です! えー今日はですね。告知通りブイチューバー展覧会についての………………』


「きゃああーーーーー‼ キター――‼ ふーがくーーーん‼」


「うお、ビックリした……」


 推しの登場に歓喜を上げる充希……に驚く奈々子。そして奈々子は呆れてまた溜息を吐いた。

 配信の内容としてはこれといって変わった事は無く、風牙は告知通り、淡々と今日の感想を述べていった。強いて特筆するならば、充希がニチャリと笑って、「せ、せっかくだし今日は赤スパ送ってみようかなぁ。グヘへ」とキーボードに手を伸ばしたので、奈々子が頭を引っ叩いて止めた。


 そして生配信開始から15分。

 奈々子は疲労と、あとシンプルに風牙の話がつまらないと感じたので、寝落ちした。


 ☆


 奈々子は夢を観た。神社に立っていた。鳥居の真下に突っ立っていた。


「…………………」


 周囲を見渡す。ありふれた、どの街にもありそうな日当たりの良い境内には、参道に沿うように大勢のブイチューバー達が並んでいた。

 今日の博覧会で観たブイチューバー達だ。参道以外の敷地を、埋め尽くすほどに大勢並んでいる。全員、軍隊の隊列の様に綺麗に並んでいる。そして何故か無表情で俯いている。


 真正面にある本殿に目をやる。豪華との貧相とも言えぬ本殿。そこに設置された賽銭箱の前で、誰かが、必死に祈っている。


「お願いします……お願いします……」


 よく観ると運営スタッフの佐々木だった。ブースの案内をしてくれた彼女だった。

 彼女は両手を擦り合わせて一生懸命拝んでいる。ぶつぶつ願い事らしき言葉を呟いている。


「今度の展覧会でブイチューバー好きがもっと増えますように。展覧会に来た人がブイチューバーに成りますように」


 必死になって祈っている。拝んでいる。それを奈々子は眺めている。


「今度の展覧会でブイチューバー好きがもっと増えますように。展覧会に来た人がブイチューバーに成りますように」


 祈っている。拝んでいる。祈っている。拝んでいる。


「今度の展覧会でブイチューバー好きがもっと増えますように。展覧会に来た人がブイチューバーに成りますように」


 祈っていて、拝んでいて………………。


「――――本当ですか! 嗚呼、神様ありがとうございます!」


 すると、祈って拝んでいた佐々木が突然叫び出した。


「そうですよね! ブイチューバーがもっと増えて、二次元と三次元を無くすようなブームを起こすべきですよね! 神様もそう思いますよね! やっぱりそうですよね!」


 空を仰いで、喜々とした表情で叫ぶ。共感されたことを喜ぶように気持ちを叫ぶ。


「……………………………………」


 そして黙って、無表情で奈々子に振り返った。


「貴女もそう思いますよね」


「……えっ」


 唐突に投げかけられ戸惑う奈々子。佐々木は顔色一つ崩さず、


「貴女もそう思いますよね」


 再び聞いてくる。奈々子はやはり狼狽える。


「な、何を……」


 狼狽えて、そして片足を一歩引いて、その足が鳥居を跨いだその瞬間―――――――。


「「「「「「「「「「貴女もそう思いますよねッ―――――――‼‼」」」」」」」」」」


 辺りのブイチューバー達が、不気味な笑顔で叫んだ。



「――ッ⁉」


「おっ。起きた起きた!」


 と、ここで目が覚めた。


「今のって……夢か………」


「もう! 生配信中に寝ちゃうなんて! あんだけ一緒に観ようって言ったのに。てかそのまま寝ると風邪ひいちゃうよ?」


 充希が奈々子の肩に手を置いている。どうやら揺すって起こしてくれたようだ。


「あー……そうか寝落ちして。ごめんごめん。滅茶苦茶つまんなかったから、つい……」


「ちょっとーどういう意味それー?」


「ねえ今何時? 生配信はもう終わった感じなの?」


 奈々子が立ち上がり、軽くストレッチをする。


「配信は今さっき終わったよ。もう0時過ぎてるし、早くベットで寝よ? 明日も博覧会あるんだしさっ」


「0時か~。じゃあまぁベット行くか…………ん? 0時だぁ?」


 奈々子がリビングの時計を見やった。充希がいった通り、時刻は日を跨いでいた。


「いや、喋りすぎだろ風牙ク~ン」


 約四時間のトーク生配信に度肝を抜かれる奈々子であった。


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