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《あほあほ神社へ》ラスト、別視点

「街の景色が変わったのは、恐らく私の邪気が暴走して溢れ出ていたからでしょうね。その邪気の影響で、思い出深い景色を形成した。ありえない話じゃない。充希ちゃんが私を目視できたのもその邪気のせいでしょうね」


「………よく全然理解できないけど、要件はそれだけ?」


 病院の玄関入口。ナズナの奈々子は呟く。辺りには大勢の人々が行きかう。

 外は日が暮れており、儚く神々しい夕日が街を照らす。


「いやいや。別れる前にもうちょっと話したいなぁ。私達の仲でしょ?」


「…………他に何を話したいの?」


 建物の壁に背を預け、スマホを耳に当て、若干動揺した面持ちで対話をする。

 そんな奈々子にナズナは微笑む。


「そんな警戒しないでよ? 大した話じゃないからさ」


「というと?」


 電話のフリをしながら、奈々子は聞き返す。


「ちょっとね、私の今後についてなんだけどね」


 ナズナの声のトーンが下がる。奈々子が目を細めた。


「ほら、私って取り返しのつかない事をしたでしょ? 弄ぶように殺して、残虐非道を尽くして」


「まあ、そうねぇ」


 昨晩の夢を思い返す。ナズナが村人達を蹂躙する光景は、奈々子が今まで視聴したどんなスプラッタ映画より凄惨で、悲惨で、救いようがなかった。


「いくら過去に酷い事をされたとはいえ、人間を恨んでいたとはいえ、この罪は決して許されるものじゃないと思う。貴女と充希ちゃんにも、酷いことしたしね」


 だんだんとナズナから笑顔が消える。奈々子の表情も神妙なものになっていく。


「だから、なんていうか………………」


「なんていうか?」


 ふぅーと溜息を吐いてから、奈々子が聞き返す。


「多分、私は存在してはいけない存在だと思う」


「………………」


「この世から消えた方がいい存在なんでしょうね、私は」


 奈々子が横を向く。

 ナズナが、涙を流していた。


「わざわざそれを言うために?」


「ははっ、うん。誰かに話したくて。懺悔みたいなものね」


 話しながらじっと、ナズナを見つめる。


「やっぱり、罪の意識はあるんだ」


「まあね、じゃなきゃこんなに、――――――こんな泣きたい気持ちにならないわよ」


 ナズナを見る奈々子の目は、何とも言えない色をしている。罪人を見るような。儚く散っていきそうな景観を眺めるような。はたまた親が我が子を見るような…………。

 そんな独特な哀愁を漂わせていた。


「でもその感じだと、邪気が抜けてなんか元には戻ったんでしょ? そりゃあ許されない行為だろうけど、ぶっちゃけこう……酌量の余地あり? みたいな感じじゃない?」


 奈々子が提案する。


「できない。例え怨念に支配されていたとしても、私が罪を犯したことには変わりない」


「…………そうは言ってもねぇ。個人的は、これから幸せに暮らしてもいいと思うけど? 貴女みたいな規格外な存在を裁ける奴なんて居ないんだし、だったらもういっそ普通に暮らしたら? まあ私自身、自分がヤバい事言ってるのは分かってるけども」


 奈々子が言う。じっとナズナを見つめる。


「できない……できない! 出来るわけないじゃない‼ 本当よ何でそんなこと言わるのよ‼ どうしたらこんな罪人に幸福があっていい筈がないの‼ だから…………私になんかもう、消え去って、」


 それから、又しても溜息を、今度は長め深く吐いて、


「うるさい。幸せになれるんだったらなるべきでしょ。平穏に暮したかったんなら尚更……」


 何か感情を込めるように、低い声で言った。


「それに、貴方が幸せじゃなきゃ困る子だっているんだしね」


「そうだよ、姉さん」


「え」


 奈々子が再び前方を向く。

 優しい笑顔のヨモギが居た。

 慈悲の目でナズナを見ていた。


「もういいんだ。ゆっくりと、人を笑顔にしながら暮らそう。愉快に暮らそう」


「でも………いいの? 私は沢山悪いことをしたのよ? それなのに、生きてていいの?」


「例え誰もが責めても。僕は一緒に暮らしたい」


「ヨモギ……でも……」


「行こう姉さん。一緒に暮らそう」


「ほら、行きなって。弟も不幸にする気?」


 そう言うと奈々子は、笑顔になった。


「奈々子ちゃん…………」


「あっ、言っとくけど、私は許した訳じゃないからね?」


「えっ」


 面食らったナズナに、奈々子は更にニコッとして笑った。


「『また弟を悲しませたら恨むぞ』ってこと! だからほら、行った行った!」


「っ………‼」


 それから壁に寄りかかるのを止め、ピンと背筋を伸ばした。


「行こう、姉さん。どこか遠くに」


「うん、行こっか」


 そしてゆっくりと、二人が浮遊し始める。奈々子は空を見上げた。

 空はもうすっかりオレンジ色に染まった。もうすぐ夜が訪れる。

 二人のこれからを祝福するように、夜が訪れる。


「じゃあ奈々子さん、またどこかで。今度は四人で一緒にクレープでも食べましょう」


「またね、奈々子ちゃん。今度は絵について教えてもらいたいな」


 ヨモギとナズナが笑う。楽しげに笑う。


「うん、じゃあまた」


 奈々子はそういって、スマホをポケットに閉まった。


 それからしばらくして、二人は姿を消した。

 未だ名残惜しくて空を眺めていると、後方から充希の声がする。


「あ、いたいた奈々子ちゃん! もうどこ行ってるのさ~!」


 トイレから戻ってきた充希が、怒りながら駆け寄ってきた。


「…………? ちょっと? 何見てるのさ?」


「いや、夕空が綺麗だなぁって」


「な、なに呑気なこと言いてるの! トイレ行ってたんだからロビーで待っててよ!」


「あ~悪い悪い。じゃあ帰ろっか」


「〝じゃあ〟って何さ!」


 五月蠅くもあり、何処か楽しげでもあり…………。

 そんなやり取りを交わしながら、二人は帰路へ着いた。


「あ、多分あの二人なら大丈夫そうだよ。充希」


「え? どしたの急に?」


 そんな会話もしながら、帰路へ着いた。

次回、プロローグ

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