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《ブイチューバーにされる展覧会》その2

 次の日。つまりブイチューバー展覧会初日。

 電車を乗り継いで幕張駅に着いた二人は、国内でも有数な展示場へと向かった。駅から展示場へ向かう大勢の人々は、ブイチューバー展覧会を目当てにしているらしく、ブイチューバー関連のグッズや衣装を身に纏っていた。

 展示場の入り口から中に入ると長蛇の列が何回も何回も、折り畳まれるように伸びていた。


「ひえ~、やっぱり混んでるねぇ~」


 ざわざわ犇めく人々を見て充希が呟き、そのまま列の最後尾に並んだ。


 このブイチューバー展覧会は三日間開催であり、展示場の第一ホールから第六ホールまでを使った大型イベントだという。一ホール分が6750㎡だというのだから、その規模のデカさは語るまでもないだろう。

 主なイベントとしてはブイチューバーの生ライブや生トークショウがあるが、ブイチューバー本人と会話出来るブースやブイチューバーを体験出来るブースや、事務所の社員が教えるブイチューバーになるための教室など挙げればキリがない。


「……あ、当然グッズ販売の場所も一杯あるよ! ここでしか手に入らない物も沢山あるし、日によってグッズの種類も変わるみたい。今月のお小遣い全部使ってそろえようと思ってるんだ! アタシ!」


 並び待ちしながら今回のイベントについて説明してくれた充希は、拳を握りしめて決意表明をする。このイベントを全力で楽しむ所存のようだ。取り敢えず奈々子は「いやお小遣いは大切に使いなって」と諭した。

 それからしばらくして列が進んで行き、ホール入口でスタッフに荷物検査とされ、チケットと交換にステッカーを渡された後、いざ入場することができた。


「あ、当たらなかった。風牙クン……」


「あらら」


 落胆する充希。お目当てのモノは手に入らなかったらしい。奈々子のステッカーも兎耳の女の子で充希の推しではなかった。


「ま、まあ初日だし。大丈夫だよね、うん! じゃあ気を取り直して、周ろうか!」


「りょーかーい」


 というわけで、二人はブラブラ歩きまわり始めることにした。

 大型イベントだけあって、やはり人口密度がえげつない。見渡せば人、人、人……。一応ドでかいホールだった筈だが、密集しすぎて開放感はほぼ皆無。強いて言えば天井が果てしなく高いのが解放感要素だろうか。翼で飛べたら移動はラクそうである。

 大きな袋に大量のグッズを詰め込んだ男や、大好きなブイチューバーのコスプレをする女子ペア。幼い子供に同伴する保護者の姿。外国人も多数いる。来場者は基本的に年齢や生別の偏りはなさそうだ。が、アッチを見てもコッチを見ても、ほぼ全ての人々はブイチューバ―関連のモノを身に付けている。やはり全員充希のようなオタク民族なのだろうか。

 こうもブイチューバー一色の景色だと、奈々子一人だけが別世界に迷い込んだ感覚に陥る。


「なんか百鬼夜行みてえだなぁ」


「いやなにその感想」


 呑気そうに奈々子が気持ちを呟き、充希は呆れた。

 人混みの間を抜けながら歩いていると、一際目立つ行列があった。


「こちら、ブイチューバーと会話ができるブースの最後尾になっていま~す」


 スタッフが看板を掲げて叫んでいる。看板には律義に『最後尾』の文字が。充希が嬉しそうに指さした。


「あ! アレアレ! 行きたかったんだよね~! 個人勢で有名な『右腕だけムキムキ三太郎』とか、この前のブイチューバー将棋王決定戦で優勝した『ナナ米』ちゃんとかと二人きりで話せるんだって!」


「ふーん、アンタ並ぶの?」


「うん! 奈々子ちゃんも行くでしょ?」


 奈々子は長蛇の列をじーっと眺めてから、


「あっ、私はいいや、その辺見て回ってる。並ぶのめんどくさい」


「えー乗り気じゃないなぁ! まぁいいやじゃあ行ってくる!」


 といって充希はハイテンションで最後尾へと駆けて行った。

 奈々子はそれに手を振る。二人は一旦別行動を取り始めた。


 ☆


(めっちゃ元気だなアイツ。入場するまでの行列はへばってた癖に。オタクパワー的な?)


 心の中で呟いて、さてこれからどうするかと奈々子は歩く。

 依然としてどこを見てもオタクと会場スタッフとブイチューバーの着ぐるみが視界に入る。この光景は百鬼夜行というよりハロウィンのようにも思えてくる。人酔いしそうだ。


(なんか、朝あんまり食べてなかったから小腹減ったな。何か食べ物売ってる場所でも……)


 そう思い適当に歩いていると、あるブースが目に留まった。そのブースの前に立ち止まる。


「『Vtuberの歴史』、か」


 看板の文字を読み上げる。そのブースはトンネルのような造りをしており、白い壁に何やらパネルが貼ってあった。来場者たちは壁に貼ってあるパネルを凝視していたり、写真に撮ってる。人は他の場所に比べれば少ない。まあ結構な人数がいるが。


 奈々子は興味本位でそこに入る。明るく照らされたトンネル内は広々としている。ゆっくりできそうだ。入口付近に貼られたパネルを覗いてみると、長々とした説明文が書かれている。


(なるほどね。ブイチューバー業界の歴史が書かれてるのか。今見てるのが『ブイチューバ―の始まり』だから、奥に進めば進むほど最新のブイチューバー事情になるのかな?)


 トンネルの奥の方を見る。結構長い。それだけブイチューバーの歴史が濃厚である事を示していた。


「気になりますか」

 すると突然、後ろから声を掛けられた。振り返ってみると女性スタッフが立っていた。


「どうもこんにちは」


「えっ、あぁ。どうも」


 奈々子が軽く会釈する。二十代くらいのスタッフは優しく微笑み、こちらに向けている。首から下げたネームプレートには『佐々木』の一文字が。このブースの担当スタッフだろうか。


「気になりますか、その解説プレート」


 落ち着きのある口調で話す佐々木。奈々子はまぁ……と一間置いてから、困惑気味に返答する。


「えーと、まぁ……そうですね。ブイチューバーってあんまり詳しくなくて」


「あ、そうなんですか?」


「はい、従妹がブイチューバー好きで。今日も一緒に同伴したんですけど、私自身興味がなかったので何も知らなくて。だからちょっと此処に立ち寄ったんですよ」


 奈々子が苦笑いをすると、佐々木はコクリと頷く。後ろに結んだポニーテールが揺れた。


「なるほど。―――それでしたら、私が分かりやすく解説をしてもいいでしょうか?」


「え、解説……ですか? いや、良いんですかそんな」


「ええ勿論。解説プレートを観ながら私が横で説明しますよ。そうすれば初見の人でも、ブイチューバーの歴史がより深く理解できると思いますよ。あっ、無理にとは言いませんけど……………いかかでしょう?」


 尋ねてくる佐々木。奈々子は少し悩んで、快くそれを承諾した。


「まぁ……じゃあ。迷惑でなければ」


「ありがとうございます。じゃあ早速解説していきますね」


 あの長蛇の列を見る限りじゃあ、充希もそうそう時間が掛かるだろう。奈々子はじっくり見学することにした。


 その後、解説パネルに書かれた内容を佐々木が補足説明していってくれた。トンネルを進むごとに近年のブイチューバー事情のものになるので、業界の誕生から今現在まで、事細かに詳細を理解していくことが出来た。


 初期のブイチューバーは動画投稿が主であった。3Ⅾモデルの可愛らしいキャラクターが喋り、リアルで躍動感ある動作は、近未来的な目新しさもあり着々と知名度を上げていった。


「あー、個人的にはこのイメージが強いです。ゲームのキャラクターみたいなのが動き回るのとか、前に観た気がします」


「そうですね。知らない人がブイチューバーと聞いて、3Ⅾモデルの方を連想されるのは今でも多いと思います。3Dモデルの登場は色んなメディアにも取り上げられて印象的でしたしね。ですが今ではそれも昔の話です」


 佐々木が返答する。確かに人気が出たことにより3Ⅾの動画投稿が認知されていったのだが、しかしそれはそう長くは続かなかった。


 2Dモデルでの生配信。―――立体的な動きが出来る3Ⅾとは真逆。平面的な動きをするこのモデルが、ライブ配信でファンを集める形態が主流となっていったのである。


「観た事ありませんね? 上下左右の平面にしか動けない二次元キャラが、生放送でゲーム実況したり雑談したりする動画。今はもっぱらアレが主流ですよ」


 確かに3Ⅾの動画投稿は画期的だったが、2Dの〝手軽さ〟には引けを取ってしまった。

 3Dは立体的な動きをするため、機材や演者へのコストやスタジオでの撮影、動画編集などなど様々な労力があった。

 だが2Dは平面的な動きしかしない為、カメラなどのコストやパソコンでの編集労力はある程度抑えられ、且つ撮影機材もそれほど大掛かりでもない。なのでスタジオで撮影せず自宅で撮れた。


 素人でも少し知識を積めば、家から一歩も出ずに配信が出来る時代になったのだ。


「そして何より〝生配信〟というのが強いです。後で動画編集するなんてこともないですし、ブイチューバーが視聴者からのコメントにすぐに応えられる。何より〝スーパーチャット〟でお金も入って来る。視聴者側も事務所側も『winn‐winnな関係』ですよ」


「スーパーチャット?」



「『コメントと一緒にお金もブイチューバーに送れる機能』と言えば分かりますかね? 生配信専用の機能で、スーパーチャットは他と比べて色が付くんですよ。色付きコメントは配信者の目に留まりやすいので、コメントを読まれたい時に使うんです。一番高い金額は『赤スパ』という赤色のコメントで、1万円以上払うと使えるんですけど、ファンはコメントを読まれたいのでバンバン使うんですよね~。人気のブイの配信となるとコメントの流れが滝の如く早いのでまず読まれないんですから、なファンたちは推しのブイに認知される為にこぞって何通もの赤スパを送って破産寸前まで…………って、アハハ。すみませんちょっと脱線しちゃいましたね。熱が入ってしまいました」



 暑い弁論に恥ずかしくなったのか、照れながら佐々木が笑う。慌てて奈々子はいえいえと首を横に振る。


「いえいえ。人と話すの好きですし、詳しく聞けて嬉しいです。好きなんですね、ブイチューバー」


「え⁉ あ、アハハ……お恥ずかしながら……。学生の頃からずっと大好きで……」


 佐々木は照れ笑いのまま俯いて、そして干渉に浸る様な眼をして天井を見上げた。


「実は私、高校の頃から引きこもりがちで。何もかも嫌になってた時に出会ったのがブイチューバーだったんです。動画の中で輝く彼女達を観ていると心の底から元気が出て来て、勇気を貰えて…………何事にも一歩を踏み出せるようになったんです」


 眼を輝かせて語る佐々木。奈々子はただただ静かに話を聞く。


「―――私のようなブイチューバー好きがもっと増えて、そしてその人が新しいブイチューバーとしてデビューして、この業界を更に盛り上げる。それが私の夢で、願いなんです」


「…………………」


「アハハ、すみませんこんな。気持ち悪いですよね、赤の他人に長々と語っちゃって」


 佐々木はまたしても恥ずかしそうに笑った。それに対し奈々子は、今度はゆっくりと首を横に振り、優しく笑った。


「いえいえ。本当にそうなると良いですね」


 その後、個人勢は一般人のブイチューバ―だとか。事務所に所属してブイチューバーをする方が人気出るだとか。箱とはプロダクションのことだとか。今は二大プロダクションが強く大体の所属ブイチューバーがどちらかに入社しているだとか…………業界の知識を教わって(というか熱弁され)、その場を後にした。

 そして既にブース体験を終えていた充希と合流し「遅い!」と怒られた。


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