《あほあほ神社へ》ラスト
ナンバリングは合っています。
「………よく全然理解できないけど、要件はそれだけ?」
病院の玄関入口。その側で奈々子は呟く。辺りには大勢の人々が行きかう。
外は日が暮れており、儚く神々しい夕日が街を照らす。
「…………他に何を話したいの?」
建物の壁に背を預け、スマホを耳に当て、若干動揺した面持ちで対話をする。
「というと?」
奈々子が聞き返す。
奈々子が目を細めた。
「まあ、そうねぇ」
呟いて数秒後、奈々子の表情が神妙なものになっていく。
「なんていうか?」
ふぅーと溜息を吐いてから、奈々子が聞き返す。
「………………」
奈々子が横を向く。その目線の先の地面には、コンクリートから生えた薺がひっそりと咲いている。風か鳥かが種を運んで奇跡的に咲いたのか。それとも誰かが種でも撒いて、どうにか世話をして咲かせたのか。
どちらも現実的じゃないが、それにしても、コンクリートから咲くとは凄い生命力である。それはそれは、一生懸命生きているのであろう。
「わざわざそれを言うために?」
話しながらじっと、薺を見つめる。
「やっぱり、罪の意識はあるんだ」
その目は何とも言えない色をしている。例えるなら、罪人を見るような。儚く散っていきそうな景観を眺めるような。はたまた親が我が子を見るような…………。
そんな独特な哀愁を漂わせていた。
「でもその感じだと、邪気が抜けてなんか元には戻ったんでしょ? そりゃあ許されない行為だろうけど、ぶっちゃけこう……酌量の余地あり? みたいな感じじゃない?」
奈々子が提案する。
「…………そうは言ってもねぇ。個人的は、これから幸せに暮らしてもいいと思うけど? 貴女みたいな規格外な存在を裁ける奴なんて居ないんだし、だったらもういっそ普通に暮らしたら? まあ私自身、自分がヤバい事言ってるのは分かってるけども」
奈々子が言う。じっと薺を見つめる。
それから、又しても溜息を、今度は長め深く吐いて、
「うるさい。幸せになれるんだったらなるべきでしょ。平穏に暮したかったんなら尚更……」
何か感情を込めるように、低い声で言った。
「それに、貴方が幸せじゃなきゃ困る子だっているんだしね」
奈々子が再び前方を向く。
「ほら、行きなって。弟も不幸にする気?」
そう言うと奈々子は、笑顔になった。
「あっ、言っとくけど、私は許した訳じゃないからね?」
奈々子は更にニコッとして笑った。
「『また弟を悲しませたら恨むぞ』ってこと! だからほら、行った行った!」
それから壁に寄りかかるのを止め、ピンと背筋を伸ばした。
そしてゆっくりと、空を見上げた。
空はもうすっかりオレンジ色に染まった。もうすぐ夜が訪れる。
「うん、じゃあまた」
奈々子はそういって、スマホをポケットに閉まった。
それからしばらく空を眺めていると、後方から充希の声がする。
「あ、いたいた奈々子ちゃん! もうどこ行ってるのさ~!」
トイレから戻ってきた充希が、怒りながら駆け寄ってきた。
「…………? ちょっと? 何見てるのさ?」
「いや、夕空が綺麗だなぁって」
「な、なに呑気なこと言いてるの! トイレ行ってたんだからロビーで待っててよ!」
「あ~悪い悪い。じゃあ帰ろっか」
「〝じゃあ〟って何さ!」
五月蠅くもあり、何処か楽しげでもあり…………。
そんなやり取りを交わしながら、二人は帰路へ着いた。
「あ、多分あの二人なら大丈夫そうだよ。充希」
「ハア? なに急に?」
そんな会話もしながら、帰路へ着いた。
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