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《草生える公園の芸人》ラスト

「奈々子ちゃん! 起きて奈々子ちゃん!」


「う、うぅん………………」


 充希の声が聞こえ、次の瞬間奈々子は目を覚ます。


「み、充希…………充希!」


 コチラを覗き込んでいる充希の顔を見て、奈々子はすぐに状態を起こした。

 すぐに両肩をガッチリ掴んで揺らす。


「おう~おう~⁉ ちょっ、奈々子ちゃん~~⁉」


「大丈夫なのアンタ⁉ 怪我は⁉ 怪我は大丈夫なの⁉ 早く病院に!」


「無い! 無いから! アタシも奈々子ちゃんも怪我は無いから! だから揺らすなァ‼」


「へ?」


 指摘されてやっと確認する。確かに充希の喉に傷穴は無いし、自分の腹部にも無い。

 否、それだけではない。どちらとも全身に掠り傷一つしかないし、なんなら服すら破けていない。血に汚れていない。なんとも綺麗な状態である。


「ど、どうして……」


「それだけじゃないよ、周り観て!」


 辺りを見渡す。するとどうだろう、草のドームはきれいさっぱり消えており、広々とした公園と隣の図書館が視界に映る。空は……昼下がりだろうか。日が少しだけ傾いていた。

 また、草から草が生えていた謎状態の芝生も元通りになっていて、一面均一に揃えられている。


 何より草のドームにされた観客達が気持ちよさそうに芝生で寝ている事と、斎藤だった雑草の塊が、無くなっていた。


「なんかよく分かんないけど、どういう事なのさコレ? 全部キレイさっぱり消えてるし、斎藤さんも何処にもいないよ⁉ それにアタシ達ピンピンしてるし、さっきまで確か漫才対決してて……………え、夢? 奈々子ちゃんアレ夢だったの⁉ 夢アレ⁉」


 大騒ぎで聞いてくる充希。

 奈々子はじっと充希を見つめ、ハーーーーーっと長い息を吐く。


「なんだそれ~~~~~~~~~~~~」


 それから大胆に芝生に寝っ転がった。


「疲れたーーーーーーーーーー。腹減ったーーーーーーーーーーー」


「え、ちょ、奈々子ちゃん?」


「そして良かったーーーーーーーーー生きてて」


 今迄の疲弊を全て吐き出すが如く奈々子は叫ぶ。


「ちょっと奈々子ちゃん聞いてるの⁉ 何があったのか分かるの⁉」


「あ~、まぁ大体は。てか腹減ったしご飯食べ行こ? 道の途中で色々話すからさ」


「……はぁ⁉ ちょっと! ふざけてんの奈々子ちゃん⁉」


 どこかゆるい返答に充希は更に困惑。ぷんすか怒り出す。

 そんな充希を眺めながら、奈々子はフッ笑って、


「草生える~」


 再び、生きていることに安堵したのだった。

 色々な疑問は残っているが、一先ずは、生きていることに安堵したのだった。


 ☆


「飽きないねぇラーメン。三日連続なのに」


「いや~気にっちゃってさ~。ここのラーメン美味しいし。じゃ、頂きます!」


 充希がそう言って、目の前に置かれた豚骨ラーメン(細麺、並盛、ねぎ増量)を啜りだす。


「美味いぃ~~。やっぱオタクと豚骨は切っても切れない関係なんだってば奈々子ちゃん!」


「病気になりそう」


 溜息交じりに呟く奈々子。

 油と湯気を纏った麺を口に運び、充希が唸る。

 麺を口に運び、充希が唸る。

 運び、唸る。

 箸が止まらない充希を横目に、奈々子は振り返る。


(あの人は何処へ消えてしまったのか。いやそれよりも、あの鈴の音と誰かの声は一体……)


 眼を閉じ、気を失う寸前の出来事を思い浮かべた。

 あんなに満身創痍だった自分と充希も、周囲の異様な風景も、目を覚ませば全て元通り。あり得るわけがない。あの声の主が助けてくれたのか?


 いや、そもそも本当に経験した事だったのか。

 アレは幻だったのか。前回の博覧会のせいで気が狂ってしまっているのか。

 しかしそれにしては鮮明すぎる、血生臭くアホらしい体験。


「…………………………」


 奈々子が思考を巡らす。

 先週のブイチューバー展覧会といい今回といい、鍵になっているのは、鈴の音と―――――。


(調べてみるか、安穂(やすほ)神社)


 二人が参拝していたあの場所。経験した二つの不可思議への唯一の手掛かり。

 やはり、あの夢に出てきた神社に疑問への答えが眠っているのだろうか。


「ほいよ、究極怒涛バカデカ大盛担々麵汁なし一丁。まさか三日連続でこれを注文するなんて、お姉さんフードファイター? 応援してるよ!」


 店長がテーブルに超大盛の、巨大担々麺を置いた。

 車のハンドル程の大皿に、富士山の如くテンコ盛りにされた麺と具材たち。


「頂きます」


 奈々子は丁寧に割り箸を割って、目前のそれを豪快に啜りだした。


「絶対人のこと言えないよ奈々子ちゃん…………」


 充希が呆れて奈々子に呟いてから、


「それにしてもさぁ奈々子ちゃん。本当に何だったんだろうね、あの人」


 コップの水を飲んだ。


「さあ。ただまぁ、なんやかんやこうして生きてるし、負かしてやれて良かったかな。めっちゃ傷だらけになったけ……ど……も」


 そう口にした奈々子は、ある事に気付いてしまった。

 そう、とても重大な、あることに。


(も、もしかして………後ろのジャッジマンに触って能力使えば、取り敢えず死にかけることは無かったのでは⁉)

次回、アホアホ神社編のスタートです。

感想等お願い致します。

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