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《草生える公園の芸人》その10

 奈々子は「ハッ」と鼻で笑う。


「教えてやるよ。私の能力には二つ。一つは『物質と対話できる能力』で、これは物質に〝人格〟を宿らせ命令できるという認識でいい。事実、物質は人のような言動を取る………」


 淡々と語る奈々子に、斎藤は訝しんで応える。


「えぇ知ってますよ。貴女が俺同様特異な力を使えることは。だから何だっていうんです?どうやらその能力は俺が生やした草に命令出来ないようじゃないですか?」


「違う……重要なのはもう一つの能力」


 奈々子は嘲笑うように口角を上げる。


「『物質に発話機能を付与する能力』……指で触れることでしか発動しないこれは、前者の能力とマジで似てる…………けど本質はまるで違う! 前者は物質の声音や、喋る言葉や、速さや、テンポや、大きさや、タイミングや、その他諸々全部決められない全てランダム!」


「……?」


「ははは………でもなぁ後者は違う全部自分で決められる! 人格を宿らせない代わりに、思うが儘のフレーズを好きなように言わせられる! あは、あはは、あはははははは‼」


「………何が言いたい?」


 奈々子のテンションは高くなっていく。


「全く便利すぎて、草生えてるわ! あはははははははははは‼」


「何が言いたいと聞いているんです!」


「……『能力を使った』っつってんだよ」


 すると奈々子はドスの効いた声でそう言って。


『ぎゃははははははははははははははははははあ‼〝1000草生える点〟っっっ‼』


 大草原ジャッジマンが大爆笑した。斎藤の背後にいる方が。


「⁉」


 斎藤が余りにも大きい笑い声で一瞬動きが固まったと同時。


 ―――その身体の至るところに、大量の草が生えた。


「がはぁ⁉」


 血を吐く斎藤、顔が痛みに歪められ、膝を着く。


「………はははは、スッキリしたァ」


 一方奈々子と充希には一切草は生えていない。全て抜け落ちていた。

 奈々子の表情も、憑き物が抜け落ちたように、晴れやかである。


「くッ! どうして勝手に……………いや待て、能力を使ったって」


 動揺を隠せない斎藤が、背後のジャッジマンに振り向く。


「ああ、使ったよ。〝後者の能力〟」


「じゃあ可笑しいだろ! 貴女は指で触れていない! なのにどうし、」


 瞬間、斎藤は気付いた。

 大草原ジャッジマンの足元に、落ちているモノに。


「指」


 すぐに奈々子の手元に視線を送る。右手からだらだらだらだら、血が零れていた。

「――――指を切って………投げたのか? さっき俺に投げたと思っていたのは、本当はジャッジマンを狙って……………ッ⁉」


 奈々子は、またしても鼻で笑った。


「言っただろ、発動条件は『指で触れること』だって」


 そう。さきほど奈々子は自身に生えている草で右手薬指を切り落とし、斎藤に狙うフリをして大草原ジャッジマン目掛け投げていたのだ。


「ははははは、如何せん初めての事だからさぁ! 上手く発動するか分からなかったけど、案外イケるもんなんだ! あぁ⁉ はははははははははは‼」


「お、お前………クソ、身体が………!」


 身体中の草が邪魔なのか、斎藤は思うように動けない。


「てかさぁ! 能力で無理やり言わせても草生えんだなオイ‼ 判定ザルすぎんじゃねえのかよオイ‼ こんなんマジで大草原ってヤツだよなぁ‼ ぎゃははははははははははははははは‼」


 奈々子は笑う。ハイテンションで嘲笑う。その整った顔が大きく歪むほどに高笑いする。

 もう彼女には何もない。ただ死を待つのみ。その絶望が彼女を更に投げやりにさせ、且つアドレナリンの大量排出により破滅願望と傷害行動をフルスロットルで加速させている。


「ぎゃははははははははははははははははははっははっはははは‼」


 ――――つまり簡単に言うと、奈々子はいま〝ハイ〟になっていた。


「クソ、何か、ネタを……」


「させねえよボケ」


 ネタを披露しようとしていた斎藤に、奈々子はすぐに反応した。

 自身の足元にある『抜け落ちた草』を拾い上げ、そのナイフの様に鋭い葉で左手人差し指を切り落とし、大きく振りかぶって投げた。

 人差し指は一直線の軌道を描き、立つことのできない斎藤の頭上を越え、草人形に当たった。


「傷、治るんだったなお前」


「や、やめろ………」


「一生じっとしてろ底辺芸人」


 奈々子がそう吐き捨てて、ふぅ、一仕事終わったときのように一息ついた。


「――――やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


 斎藤の叫びが響いたかと思えば、


『ぎゃはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは、〝10万草生える点〟ッッッ‼‼‼』


 大草原ジャッジマンが、今までで一番の大声で笑った。


「く、草が…………草が生えるぅぅぅぅぅぅぅぅうううううううう(だいそうげんんんんんん)‼‼‼‼‼」


 そう叫んだあと、斎藤の身体から生えた、血で染まった草々は、一瞬にして斎藤を埋め尽くし、姿を見えなくさせる。

 そしてそこには、血色の雑草の塊が、鬱蒼と茂っているだけだった。


「…………」


 ばたり。奈々子が仰向けで倒れた。


(ああ、ヤベぇ。もう力入んない……………)


 緊張が解けたせいか、一気に意識が朦朧としてくる。


(いや、てゆうか、瀕死なのによくあんな動けたって話か…………ははっ)


 ドクン、ドクン、腹部に空いた傷穴から血が溢れ出していく。

 命が流れ落ちていく。


(あー…………それとも……私が凄いタフだったって………ことかぁ?)


 倒れている充希に目をやる。だが視界がぼやけてよく見えない。

 だんだん耳も聞こえなくなってきた。身体の感覚も無くなっていく。


(あぁ…………くそ………………)


 視界が暗くなっていく。


(ごめん、充希………………)


 懺悔して、暗転。



 ――――鈴の音が聞こえた。

「無茶しすぎだよ」

 鈴の音良のような子供の声がした。


 やけにクリアに聞こえた。

次回、お笑い編のラストです。

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