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《草生える公園の芸人》その6

 次の日。昼。奈々子達は昨日と同様、例の公園へ向かっていた。


「まあまあ。何かの見間違えでしょ? そんな気を落とさなくてもさ?」


「うん……」


 充希の表情は尚も曇ったまま。やはり斎藤が心配のようである。


「いるかな、斎藤さん」


 充希が呟く。それに対し奈々子は「どうだろうね~」と平然を装い返答するが、内心は穏やかじゃなかった。

 昨晩観た斎藤の夢。アレが気掛かりで奈々子は仕方なかった。

 もし仮に、前回の佐々木の夢と同じ類の代物ならば、ブイチューバー展覧会のような惨劇を今回も味わう羽目になるかもしれない。奈々子にはそんな漠然とした予感がしていた。


 本来ならば公園に行かない方がいいのかもしれないが、だが、あのオカルティックな悪夢の信憑性にどこか疑問的な自分が心のどこかに居て。

 それに奈々子自身も斎藤が生きていて、且つ佐々木の様になっていないという証拠が、安心材料が欲しかった。つまり奈々子も充希と同じで、斎藤が事故に会っていないか心配なのである。

 ――――――まぁ、それでも佐々木の二の舞になっていたらと思うとやはり怖い。


(う~む、どうだろうか…………………)


 猫耳カチューシャの全身黒タイツに会いたい気持ち五割、会いたくない気持ち五割。奈々子の素直な心境である。


 そんなこんなで川沿いを進んで行くと、芝生の公園が見えてきた。

 そして、大勢の人だかりも一緒に見えてきた。


「ねぇ、奈々子ちゃんアレ」


「行ってみるか」


 だだっ広い公園の中心へ向かうと、爆笑している人々が形成している円の中心に、インパクトあるあの姿が。


「あ、斎藤さん‼」


 芸をカマした後なのだろうか。変なポーズをとっている猫耳タイツの変人、リーズナブル斎藤の姿がそこにはあった。


「よ、よかったぁぁ………やっぱりアタシの見間違えだったんだぁ」


「あ、あぁ……よかったな」


 気苦労が晴れ、深く溜息を吐いて安堵する充希。対して奈々子はまだ緊張が解けてない様子で、斎藤の危険性が無いという確証が欲しくてしょうがない。


「あ! お二人共来てたんですね!」


 すると斎藤がコチラに気付く。元気そうな笑みを浮かべて手招きしてくる。


「さぁ、こっちにいらして下さい! 待っていたんです!」


「「え?」」


「ささっ、早く早く!」


 困惑する二人。お互い顔を見合わせ、恐る恐るといった感じで人混みをかき分け、円の中心へ。

 観客の目に晒されながらも、ペコペコ周囲に会釈する二人。


「あ~………な、なんだか人気みたいですね?」


 奈々子が呟く。斎藤は自信に満ちた表情で、


「ええ! 新ネタが滅茶苦茶ウケてて! これも奈々子さんと充希さんが元気付けてくれたお陰ですよ!」


 照れながら頭を掻く斎藤。それを見て、充希が再び安堵しながら言う。


「いや~ホントに安心しましたよ。心配してたんですよアタシ?」


「ん? どういう事ですか?」


「あはは、実は昨日交通事故の現場に居合わせちゃって。そのぉ、こんなこと言うのもアレなんですけど………被害者の顔が斎藤さんみたいだったんで、トラックに轢かれたんじゃないかって思って。いやホント変な勘違いしてましたよ~あははは」


 充希も照れながら頭を掻いた。

 斎藤は「見てたんですか」とワンクッション入れてから、


「いやいや轢かれましたよ俺、トラックに。そのあと病院で死にましたし」


 サラッと言った。


「あ~やっぱりそうで…………え?」


「ラーメン屋近くの交差点の事故ですよね? それなら昨日の16時47分14秒に集中治療室でぽっくり死にましたよ? 俺も、公園に向かってる時にトラックに轢かれるとは思いもしませんでしたよ。たはは」


 何の気なしに、そう言った。


「「はぁ?」」


 奈々子と充希は、狼狽える。説明された内容が理解できず動きがフリーズする。


「まあ、その後神様に『チカラ』を与えてもらったから、こうやって観客を笑わせれれてるんですけどねぇ」


 ――――ドワっ! っと斎藤の言葉に、周りの観客が大爆笑。

 笑い処は無かった筈が、ドツボにハマった人々は大声で笑う。地面に転げまわる人までいる。


「な、なんだ? 何を笑って」


「奈々子ちゃんねぇ! 地面の草!」


「?」


 充希に言われ下を向き、すぐ充希の必死な叫びの意味を理解する。

 芝生が伸びてきている…………数センチ単位に揃えられていた芝生が、尋常じゃない速度でぐんぐん身長を伸ばしているではないか。

 足元だけじゃない、見渡す限りの芝生が奈々子の膝ぐらいまで成長していた。


「ちょ、なにこれナニコレ⁉ え、何で伸びてるの⁉」


「い、いや………伸びているだけじゃないよく観ろ充希!」


 奈々子は指す。その『異様な形』の草を。


「こ、これって……‼」


「なんなんだコレ⁉ ()()()()()()()()いるぞ!」


 よく観ると伸びた草の葉から、分岐するようにまた草が生えているではないか。


「あ、そうか! 昨日の違和感の正体って………」


 充希が昨日、芝生を見て感じていた違和感の正体。

 その原因はいま、恐らく最悪の形で解けてしまったのだった。

 そう、昨日の時点でもう、危険なオカルトの時間は始まっていたのだ(くさからくさがはえていた)。


「くそ、冗談じゃないぞこんなの……………」


 唐突に起こった理解不可能な異変。当然二人が動揺を隠せるわけもなく。


 ただただ涙目で訳も分からない状況に怯える充希に対し、しかし、奈々子は起きている怪奇現象の原因を瞬時に理解し、確信へと移行していた。


「それじゃあ、お二人共。俺とお笑いの勝b、」


「―――【脳味噌、いますぐに眠ってくれ】」


 奈々子が斎藤の頭を指差すのと能力を使うのは、ほぼ同時だった。

 斎藤の脳から漏れ出た『分かった』という少年の声が聞こえたかと思えば、次の瞬間、ばたりと斎藤は倒れた。

「逃げるぞ!」と叫び、「え、あ、ちょっ⁉」充希の手を握って乱暴に引っ張る奈々子。

 8~10歩ほど走って。未だ爆笑中の観客達を中へと飛び込もうとした時。


「―――いや逃がさない」


(っ⁉ ウソだろ早すぎる!)


 能力で眠らせた筈の斎藤が目を覚ます。


 その瞬間。観客達の身体から無数の〝草〟が生え始める。

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