《草生える公園の芸人》その1
新章です。
その日は暖かく、とっても過ごしやすい日だった。
『先週幕張で起こった、集団での記憶喪失の事件について、専門家は「集団幻覚の可能性がある」として…………』
「………………ハァ~」
なんてことない金曜日の午前中。大きな欠伸をするぐらい暇で暇でしょうがない奈々子は、パジャマ姿でだらしな~~くリビングのソファに寝っ転がって、意味もな~~くニュース番組を眺めていた。
ニュースはブイチューバー展覧会の一件について。
来場者達が、本来開催されていない三日目の展示場に集まり、その全員ぐったり倒れ込んでいたという内容となっており、どの番組もこの話題で持ち切りだ。
『来場者全員が昨晩からの記憶が無い』という事もあり、巷では結構話題になっていた。
のだが、流石に見飽きた。というか経験した本人なのでそこまで知りたい情報も無いし、そもそも思い出したくもない恐怖体験だ。正直流さないで欲しいまである。
まあ、展示場前で大勢の人間が倒れていて、しかも記憶喪失という状況はマスコミ的に興味をそそられる内容なのは理解できる。でもやっぱり奈々子は飽きていた。
因みに、無くしたスマホは展示場の窓口に届けられていた。問い合わせて、ちゃんと回収した。本当に本当に良かったのである。
(あ~暇だなぁ~)
再び大きく大き~~~~~く欠伸をする。もうホント暇である。仕事も一通り終えたし、録画していたドラマも全部観た。時間的には朝食を終えたばかりなので、昼食にもまだ早い。
つまり、やはり暇であった。超暇であった。
「ねぇ奈々子ちゃん」
と、そんな暇暇の暇な奈々子に、先程まで自室にいた充希が声を掛ける。何故か表情は真剣だ。
「ん~? ナニどうした~?」
「今日、学校は創立記念日で休校。つまり先週に引き続き、週末三連休なんだよ。私は」
「そうね~。知ってっけど」
「これは素直に嬉しい。もうホント最高…………でもね? 観たいアニメはもう全部観たし、積んでた漫画やラノベも特に無いし、推しのブイチューバーの配信は今現在やってないし、ソシャゲも博覧会のせいで金欠。てか青天井だったからそもそもガチャが引けない」
「ふ~ん」
興味なさげに耳を貸す奈々子に、充希は指を立てて熱弁する。
「そしてね奈々子ちゃん! 私は自他共に認めるオタク! 滅茶苦茶SNSでオタク発言しまくってる様なオタク! つまり、つまりだよ! これがどういう意味なのか分かる奈々子ちゃん⁉」
「え~何さマジ」
大げさに叫び出す充希。そして、
「ク、クフフ、クフハハハハハハハハハハ!」
突然不敵に笑いだした。
「うぉ、なんだ急に」
「ハハハハハハハハハハハハハ………………はぁ…………」
大笑いして、それから溜息を吐いてから、
「暇ああああああああああああああああああ! 暇暇暇暇暇暇暇暇暇、暇ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ‼‼‼ うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーー‼‼‼‼」
叫び出して、ゴロゴロ床を転がり出した。
「暇だよ奈々子ちゃーーーーーーーーーん!なんかしよーーーーーーーーーーーう!」
「うるっさ、ビックリしたぁ」
ジタバタと子供のように駄々をこねるオタク娘。だらしないが、ソファにぐったり寝そべる奈々子も人のことは言えないし、暇をしているのも同じである。
「ね!ね!何かしよ!暇だよホント!何もする事ないよ!奈々子ちゃん!」
「いやまぁ、暇なのは私もそうだけど」
「じゃあしよ!なんかしよ!ね!一緒になんかしよう!」
「なんかって言われても、う~ん」
ウルウル目を震わせて懇願する充希。奈々子は何をしようかと腕を組んで悩んだ。
そして一間あって、閃いた。
「あー、じゃあ散歩でも行く?」
「え、散歩?」
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