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魔術師同士の結婚には重い愛がつきものです  作者: 立花 みどり


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3/10

3(ユル視点)


思ったよりも忙しく、残業に残業を重ねていた。


ライラとの時間が取れない。ものすごくストレス。

夜ご飯も用意してあげられない。

せめて買って帰ったりするけど、ライラにはできるだけ俺の作ったものを食べて欲しい。俺の作ったものでライラの体が構成されると思うとすごく興奮する。


ライラの体を俺が作りたい。


でもそうもいかず。ライラがご飯を買ってきてくれることも多々あった。


ライラは料理ができないから。

できないと言うか豪快な料理にになっちゃうというか。ライラが料理を担当すると、大体何かの丸焼きである。そこが可愛いんだけど。


買ってきてくれるものは、どれも俺が好きとか美味しいとか言ったものばかり。本人は一言も口に出さないけど些細な愛情を勝手に見つけては寂しくなった。会いたい。


抱きしめたいなあ。寝てる時じゃなくて起きてる時に。

戦争なんていいことが一つもない。



そして、もう一つよくないことがある。

同期のユリアナの距離が近い。好意を抱かれている気がする。

自惚れじゃなくて。魔術師の職場はこういうことがよくある。


「ユルゲルト、お昼一緒に食べに行こう!」


ほら。

さりげなく腕を組もうとしてくるのでサッと腕を避ける。


ユリアナのことはどうでもいい。


でもライラの誤解を招きそうな行動は本人がいなくてもとりたくない。ただでさえ会えてないのに。一緒に暮らしてるのに手紙のやり取りばかりだ。

ああ、やばい、泣きそう。


「ねえ、あんた、彼女といつ別れるの」


仕方なく一緒に食堂で昼食をとっていたらユリアナが媚びた声で問いかけてくる。


ああ、食堂なんかじゃなくて弁当食べたい。ライラにも同じ弁当を持たせて。離れていても一緒のものを食べるんだ。同じものを食べて体が構成されていくってすごくいい。

変わってる?魔術師ってこんなもん。


ライラのことを考えて思考が飛んでいると、ユリアナは「ねえ!」と言って腕を掴んでくる。


「別れねーよふざけんな」


ひと睨みすれば怯んで、悔しそうにしながらも黙って飯を食べ始める。

魔術師は執着が強い。お互い相思相愛であれば何も問題がないけど、こういう片思いの場合が一番厄介なのだ。

執着が始まると、ちょっとやそっとじゃ諦めてくれない。

現にこいつは彼女がいる俺に執拗に付き纏っている。

どんどんエスカレートしてストーカー騒ぎになるのも珍しくはない。


ライラ大丈夫かな。


最近忙しくてライラの職場にお迎えも行けてないから不安だ。別れたと思われて軍所属の魔術師に付き纏われてないか心配になってきた。

どうしよう。俺よりも優秀で優しい魔術師にライラが絆されたら。耐えられない。

そしたらすぐに二人で仕事辞めて隣国のどこかへ行こう。だめだめ、ライラを取られるなんてあり得ない。


黙々とご飯を食べて、ユリアナと研究室へ戻る。


その途中ユリアナがこけたふりをして俺に抱きついてきた。


立場上、一時的にユリアナは上司にあたるので怪我させるわけにもいかずに、仕方なく俺はそれを受け止める。


はあ、本当に面倒臭い。ここが職場じゃなくてユリアナが班長じゃなければとっくの昔に突き飛ばしてる。


「えへへ、ありがとう、ユル」


ライラにしか許していない愛称を呼ばれて殺意が湧く。


「あ…」


その瞬間。

遠くでずっと聴きたかった愛しい人の小さな音が聞こえた。

ライラの小さな声を聞き取った俺は、声のした方を振り返る。


廊下のずっと遠くでライラが俺とユリアナを見ていた。びっくりした表情で。それからすぐに耐えるような悲しそうな表情になって転移魔法でいなくなった。


ほんの一瞬の出来事。多分俺しか気づいてないと思う。

そして、その行動と消える直前の表情ででライラが傷ついたのがわかった。


「…っ」


追いかけようとしたけど、ライラがどこに転移したかわからない。

午後に重要な会議も入っていて流石に戦争中の今、会議を外すわけにもいかない。

抱きついていたユリアナを引き剥がして、自分の研究室の通信箱からライラに急いでメッセージを送った。


「ライラ、ちがう」「こけたのを受け止めただけ」「好きなのはライラだけだから」「今日は定時で帰るから絶対に夜帰ってきて」「ねえ、ライラ」


送り続けたけど返事は来なかった。

普段ライラは俺の職場に足を運ばない。忙しいから。

もしも職場に現れたとしたら、それは緊急の用事ってことだ。


それなのに。

それなのに。


バカな女のせいで、ライラは一瞬で言葉を飲み込み、俺が追いつけないような速度でいなくなった。


絶対誤解した。どうしよう。ライラに嫌われる。ただでさえ会えてないのに。

ライラが声を上げたのはユリアナがわざとらしく俺に抱きついて、ユル、と呼んだ時だ。


俺がライラの立場だったら間違いなくユリアナに殴りかかってる。

それなのにライラは見たこともないくらい悲しそうな顔して。


何も言わずにいなくなっちゃった。どうしよう。


午後の勤務は仕事はしてるけどぼーっとしてて。とにかく仕事を終えてライラに会うことしか考えられなかった。

定時になった瞬間、家に急いで帰る。家の電気はついてない。ライラもいない。


いや、いつだって俺の帰りの方が早いから、ライラがいないことが常なんだけど。


それでもお昼に見たライラの顔が離れなくて。どうしよう。ライラが帰って来なかったら。終わる。


その日はソワソワして眠れなかった。


ライラが帰ってきたらすぐに抱きしめて謝って、それから甘やかして、徹夜してなんなら明日は無理やり休んでもいいから、とにかくなんでもしようって決めたのにライラは結局帰って来なかった。


ライラを待ち続けてたら朝になった。


いつもは遅くとも深夜2時には帰ってくるから、2時を回った頃から心配でたまらなくなってライラにたくさん手紙を書いて通信箱で送った。


本当は職場に駆け込みたかったけど、一応お互いのルールで仕事の邪魔はしないことになっている。特にライラは人の命を扱う仕事だから。どんなに会いたくても仕事に迷惑をかけさせるようなことはしないと約束してた。本当は行きたいけど。行きたくて仕方ないけど我慢した。


気が気じゃなかった。一睡もできなかった。

ああ、ライラは俺の職場まできてたもんな、普段滅多にそんなことしないのに。

急ぎで俺に用事があったのに。


でも俺が強くユリアナを拒否しなかったから、ああ、死にたい。どうしよう。


とりあえず出勤前にライラの職場に行こう。ライラが帰ってこないから気分が悪い。普通に具合が悪い、患者として行こう。それなら許されるはずだ。


ライラの顔を見ないとダメだ。拗ねてもいいし、怒って数日口を聞いてくれなくてもいい、それでも家に帰って来ないのは嫌だ。会えないのは嫌だ。


外が明るくなってきたら寝ることを諦めて、仕事着に着替える。

ライラの職場の受付開始時間に合わせて、病院へと向かった。

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