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2(ユル視点)

俺には美人で賢くてかっこいい彼女がいる。


ライラだ。

ライラは学生時代の同級生。


たまたま試験勉強のために図書館で勉強していたら仲良くなった女の子。有名な戦闘魔術師、カーマインの弟子で学園では有名だった。

カーマインが弟子を取るのは初めてで、きっと魔法がすごく上手なんだろうなと思ってた。

戦闘魔術師の弟子ってことは、戦闘魔術師だってことだ。本人は人前で戦うことを一切しない人だけど。


授業の模擬戦でも戦うのを嫌がってた。

でもどう見ても魔術も体術もピカイチで。多分戦うと本当に誰よりも強いと思う。


本人は戦うことを選ばずに、治癒士になっていつもたくさんの人を救ってる。


この国は周りを血気盛んな国に囲まれていて諍いが絶えない。どの国もすぐに侵略してこようとする。だから軍管轄の病院に勤めているライラはものすごく忙しい。


初めて出会った時からずっと好きで、二年も片思いして、ゆっくり距離を縮めて、やっと付き合えて。忙しくてなかなか会えないことを理由にして同棲まで漕ぎ着けた、大好きな人。


毎日好きだって伝えても何故か自信なさそうで、愛情を受け取ることにも表現することも苦手な不器用で可愛くて天才でかわいい。あ、可愛い2回いっちゃった。


「ユルゲルト先輩、何ニヤニヤしてるんですか」

「んー、彼女のこと思い出してさ」

「あぁ、同棲したんでしたっけ」

「うん」


同棲を始めたのはつい二ヶ月前だ。


ライラの仕事が忙しすぎてなかなか会えなくて、寂しくて。

ライラには不摂生が心配だからとか家事全部するからとかそれっぽいことを言って押し切ったけど要は俺が寂しかっただけ。


実際同棲してからは毎日ライラが自分の腕の中に帰ってきてくれる。それだけで幸せだ。


先に寝ちゃうからあまり会話できないけど、それでも朝起きて目の前にライラがいるのは本当に幸せ。ライラは朝が弱くて起きないのをいいことに顔中にキスしまくってる。そのうちエスカレートしすぎてバレそう。気をつけないと。


「そういえば今日は午後から緊急で会議が入ってましたね」


ライラのことを考えてニヤニヤしてた思考が現実に引き戻される。


「あー、また戦争かな」

「今回は結構デカそうですよ」


一つ戦争が起こればどんなに小さくても俺もライラも忙しくなる。

俺は防衛に関する魔術や魔道具を開発している身だしライラは治癒士だ。


特にライラは場合によっては戦地に赴く場合もある。

カーマインの弟子だからそこら辺の魔術師よりはずっと強いって本人は言っているけど、どんなに強くても恋人には戦場に行ってほしくない。


でも結構でかいとなるといっちゃうのかなあ。


ライラは治癒士の中でも評判がいい。ツンデレだから愛想はよくないって言われてるけど、でも誰よりも腕がいいって。どんなに病状が良くなくてもライラなら直してもらえるって。

俺たちは付き合って同棲していることも隠してないから大丈夫だとは思うけど、それでもたまに知らない軍人がライラに言い寄ってるって、病院に勤めている俺の味方の看護師が言ってた。


正直気が気じゃない。


愛情表現は過剰なくらいにしてるし、胃袋も掴みまくってるはずだけど。それでも優秀で人気な彼女だから。正直なんで付き合えてるのか俺はよくわかってないから。


彼女はたまに、ほんのたまに好きだって態度で示してくれるけど。それでも不安である。

魔術師はこれだと決めた人に依存する生き物だから特に。


ライラは今俺に依存してくれてるんだろうか。

そうだとしたらちょっと物足りないし依存してないとしたら血の気が引く。

もっとわがままたくさん言って欲しいけど全部飲み込んじゃうんだよなあ。


午後の緊急会議の内容は案の定、国境の戦争のことだった。


今開発中の防衛に関する魔道具を持っていって実験したいからある程度完成させるように。とのことだった。


特に今回はネームドの魔術師が戦闘に参加するから、とのことだ。


ネームドとは「風狼の魔術師」とか「撃滅の魔術師」とか「黎明の魔術師」とか、異名がついている魔術師たちのことだ。


生まれつき魔力量が多くてとにかく強い。王命でのみ戦闘に参加し一人で何千もの敵を倒すくらいの力があるらしい。

他国から暗殺されるリスクを防ぐためにネームドたちの素性は基本的に伏せられている。上層部の一部の人間しか知らないらしい。公表されてるのはライラの師匠であるカーマインくらい。


カーマインは「黎明の魔術師」と言われている。


由来は知らない。そもそも誰が名前つけてるんだろう。

ネームド参加の場合は勝利が確実だから試験段階の魔道具を持ち込むことがある。


「ユルゲルト!あんたはアタシの班にヘルプとして入ってもらうから。今日から補助よろしく」


会議後にそう声をかけてきたのは同期のユリアナ。

強気な性格で国境警備に関する魔道具開発チームの班長を勤めている。


ちなみに僕は王城防衛の開発チームだ。

王城防衛は反乱軍が活発化しないかぎり繁忙期がなく保守がメイン。

だから隣国が攻めてきた時にはこうして他のチームに振り分けられる。

俺は戦争が好きじゃない。好きな人間なんていないと思うけど。


俺の魔力は父親譲りで、父も兄さんも魔力を持ってた。だから戦闘魔術師として出征に参加してたんだけど、二人は大規模な戦争で死んでしまった。

愛する人を一気に二人も失った母はおかしくなってしまって家庭はめちゃくちゃ。

母は当時幼かった俺と無理心中をしようとした。たまたま様子を見にきた叔父が助けてくれて、母は病院へ、俺は叔父の家にお世話になった。そんな経緯があって戦争が嫌いだ。


叔父も魔力を持った人だったから学園に入れてくれて。


当時俺は家庭環境とかで荒んでて、学園で勉強はするけどクラスメイトと遊ぶなんてできる状態じゃなくて誘われないようにいつも図書館に逃げてた。



そしてそこにいつも必ずいたのがライラだった。

ライラのことは見た瞬間に好きになった。あ、恋に落ちるってこういうことなんだって思った。

ライラの周りには凛とした空気がいつも流れてて他人を寄せ付けない空気もあって。


人から逃げるために図書館に行ってたのに、ライラに会うために図書館に行くようになった。

勇気を出して話しかけて、警戒されないようにちょっとずつ距離を縮めた。


あー。あの頃のライラ、野良猫みたいで本当に可愛かったなあ。


思い出してたらライラに会いたくなった。

ライラも繁忙期に入っちゃうし、俺も忙しくなりそう。


せめて毎日、朝起きる時は変わらずライラの顔は見たいな。

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