第八章 フェンリルの回想
レオンと共に旅をしながら、フェンリルはふと最初の出会いを思い出していた。
あの日、森の奥深くでひとりぼっちの少年を見つけたとき、彼は弱々しく震えていた。汚れた衣服、痩せた体、絶望に満ちた目——。
「……お腹、すいた……」
か細い声が風に乗って届いたとき、フェンリルの胸にかすかな痛みが走った。かつて、自分もまた孤独を知る存在だった。
(この子は、捨てられたのか?)
人間という種族には警戒していた。だが、この小さな少年には、なぜか危機感ではなく、守らなければならないという感情が湧き上がった。
「くぅん?」
フェンリルはそっと近づいた。驚き、怯えるかと思ったが、レオンはただ驚いたように目を瞬かせるだけだった。
「……おおかみ?」
フェンリルが口を開く前に、他のもふもふたちが次々と現れた。ふさふさのうさぎ、もこもこの猫、まんまるのハリネズミ、ふわふわの狐——彼らもまた、この少年に興味を持ったらしい。
(まるで、引き寄せられるように……)
フェンリルはレオンの隣に座り、そっと体を寄せた。そして、言葉を紡いだ。
「お前、ひとりなのか?」
「……しゃべった!?」
その驚きの顔を見て、フェンリルは思わず微笑んだ。何かが始まる——そんな予感がしていた。
「当然だ。我は聖獣だぞ」
その瞬間、何かが確かに変わった。
(この子は、特別な存在だ。だからこそ、私たちはここに集ったのかもしれない)
「お前はもう独りじゃない。我らが共にいる」
それが、レオンとの旅の始まりだった。