第三十二章 兄の決意
焚き火の灯りが揺れる中、レオンたちは森の中で保護した獣人の青年と向き合っていた。ユキの兄である彼は、慎重な様子でレオンたちを見渡すと、静かに口を開いた。
「……俺はハヤテ。ユキの兄だ。助けてくれて礼を言う」
ハヤテの言葉に、ユキが嬉しそうに彼の腕にしがみつく。
「兄さん……っ、本当に無事でよかった……!」
レオンは微笑みながら頷いた。
「ユキがずっと兄さんを探してたんだ。無事に再会できて、本当によかったね」
ハヤテは少し警戒を解いたようで、レオンたちに向き直る。
「お前たちは……何者なんだ? 獣人でもないのに、どうしてこんなところに?」
レオンは簡単に自己紹介をし、旅の目的を話した。ハヤテはそれを聞きながら、じっと考え込んでいた。
「……俺たちは、もう帰る場所がない。仲間の多くは人間に捕まってしまった。俺とユキも逃げ延びたけど、いつまた狙われるか分からない……」
「だったら、僕たちと一緒に旅をしない?」
レオンの提案に、ユキがぱっと顔を上げる。
「兄さん、一緒に行こう! レオンたちはいい人たちだよ!」
ハヤテは妹の無邪気な言葉に小さく笑うと、真剣な表情でレオンを見つめた。
「……本当に、俺たちを受け入れてくれるのか?」
「もちろん。ユキも、ハヤテ兄さんも、一人じゃないよ」
その言葉に、ハヤテはしばらく沈黙した後、小さく息をついた。
「……分かった。俺も、お前たちと一緒に行かせてもらう」
その瞬間、ユキは歓声を上げ、レオンも微笑んだ。
「よろしくね、ハヤテ兄さん!」
こうして、新たな仲間が加わり、レオンたちは再び旅立つ準備を進めるのだった。
その夜、レオンはもふもふたちと少し離れた場所で円を作って座っていた。
「ねえ、ユキとハヤテ兄さんに、僕たちのこと……つまり、みんなが話せることを伝えたほうがいいかな?」
レオンがそう切り出すと、フェンリルが静かに唸った。
「慎重にすべきだ。彼らはまだ人間に対して不信感を抱いている。下手に驚かせれば、かえって警戒されるかもしれない」
「でも、ずっと隠してるのもなんだか後ろめたいよね……」モコが耳をぴくぴく動かしながら言った。
「レオンが信じていいと思うなら、それでいいんじゃないか?」トトがひょいっと顔を上げた。
レオンはしばらく考え込んだが、その時、背後から声がした。
「……何の話をしてるの?」
振り向くと、ユキとハヤテがじっとこちらを見つめていた。どうやら話し合いを聞かれてしまったらしい。
「え、えっと……!」
レオンが慌てて言い訳しようとすると、コンがふうっとため息をつきながら言った。
「もうバレたなら仕方ないね」
「え……?」ユキが首を傾げたその瞬間、ルナがにやりと笑って口を開いた。
「私たち、しゃべれるんだよ」
「ええええっ!!?」
驚きの声が森に響き渡った。その後、ユキとハヤテは何度も目を瞬かせながら、次々と話しかけてくるもふもふたちに囲まれ、大騒ぎになった。
「……まあ、結果的にはよかったのかな?」
レオンは苦笑しながら、楽しそうな仲間たちの様子を見守るのだった。




