第三十一章 兄の足跡
ユキの兄が生きているかもしれない―― その希望を胸に、レオンたちは森の奥へと進んでいった。
「確かにこの辺りで気配がしたはず……」
フェンリルが鋭い嗅覚を頼りに、周囲の匂いを嗅ぎながら言う。 ユキは焦る気持ちを抑えながら、兄の痕跡を探した。
すると、コンが木の幹に刻まれた小さな印を見つけた。
「ユキ、これを見てみろ!」
ユキが駆け寄ると、そこにはかすかに刃物で刻まれた印があった。 それは、子供のころ兄と一緒に作った合図の記号だった。
「これは……兄さんが残したものに違いない!」
ユキの目が輝く。 モコがぴょんぴょん跳ねながら
「すごい発見だね!」
と喜んだ。
「間違いない。お兄さんはここを通ったってことだね」
レオンが笑顔で言うと、ユキは力強く頷いた。 だが、ルナが慎重な表情で言った。
「でも、いつのものか分からないわ。この先をどうする?」
フェンリルが周囲を見渡しながら答える。
「これが比較的新しい痕跡なら、おそらく今も近くにいる可能性が高い。だが、敵もまだ諦めていないようだ。慎重に進もう」
「うん、気をつける」
ユキは決意を固め、仲間たちとともに兄の痕跡を追い始めた。
その頃――
森の奥の洞窟で、ユキの兄はじっと息を潜めていた。
「しつこい連中だ……まだ俺を狙っているとはな」
体に残る傷の痛みをこらえながら、彼は気配を探る。
「……ユキ、お前は無事でいてくれ……」
彼の視線の先には、遠くにぼんやりと動く影があった。 それは、彼を狙う人間たちの姿だった。
「そろそろ決着をつける時が来たか……」
彼は静かに息を吐き、再び森の奥へと身を隠した。
その頃、レオンたちは兄の残した新たな痕跡を発見しようとしていた――。
ユキの兄は息をひそめながら逃げ場を探した。 しかし、相手は周到に周囲を囲み、彼をじわじわと追い詰めていた。
「逃がさねえぞ、獣人のガキめ。大人しく捕まれ!」
「お前を売れば、かなりの金になるんだ。無駄な抵抗はやめろ!」
男たちが冷笑を浮かべながら迫る。 ユキの兄は拳を握りしめ、最後の抵抗を決意した。
「仲間を捕まえた奴らか……許さない……!」
だが、傷を負った体では多勢に無勢だった。 ついに逃げ場を失い、男たちに囲まれてしまう。
「さて、観念しな……!」
男が縄を手にした瞬間――
「そこまでだ!」
森の中から響いたのは、レオンの声だった。
「な、なんだ!? こいつらは……!」
レオンを先頭に、フェンリルやもふもふたちが姿を現す。 その気配に、男たちは一瞬怯んだ。
「兄さんを返してもらうよ!」
ユキが叫ぶと同時に、もふもふたちが一斉に動いた――!
「やるぞ、みんな!」
レオンが叫ぶと、フェンリルが一瞬で敵の懐に飛び込んだ。
「がっ……!」
男の一人がフェンリルの鋭い爪によって武器を弾かれ、驚愕の表情を浮かべる。 その隙に、コンが炎の魔法を放った。
「お、おい! 火だ! 逃げろ!」
「逃がさないわよ!」
ルナが素早く回り込み、男たちの逃げ道を塞ぐ。
「モコ、いくぞ!」
トトの合図で、モコが飛び跳ねながら男たちの荷物を蹴り飛ばし、動きを封じる。
「なんなんだこいつら……!」
男たちは完全に混乱し、次々と追い詰められていく。
「ユキ、今だ!」
レオンの声にユキが頷き、兄のもとへ駆け寄った。
「兄さん!」
「ユキ……無事だったのか……!」
再会を果たした兄妹。 男たちは焦りながらも、まだ諦めていない様子だった。
「くそっ、こうなったら……!」
男たちが最後の抵抗を試みようとしたその瞬間――
「もう終わりだ!」
シルフィードがが風で男達の服を切り裂く。さらにフェンリルが吠え、レオンが鋭い視線を向けると、男たちは完全に戦意を失った。
「ひ、ひぃぃっ……! も、もう勘弁してくれ!」
彼らは慌てふためきながら、武器を捨てて逃げ出していった。
「はぁ……助かった……」
ユキの兄は肩で息をしながら、レオンたちを見つめた。
「本当に、ありがとう……」
レオンとユキは互いに笑顔を交わし、もふもふたちも満足そうに頷いた。
「さて、ここを離れよう。詳しい話は、安全な場所でしよう」
レオンの言葉に、皆が頷いた。
こうして、ユキの兄の救出は成功したのだった――。
「兄さん、大丈夫?」
ユキが心配そうに兄の腕を支えた。 彼の体には多くの傷があり、その顔色も悪い。
「傷が深い……すぐに治療しないと」
レオンはそっと兄の肩に手を置き、もふもふ適性の力を発揮した。 すると、もふもふたちが彼の周りに集まり、ふんわりとした温かな力が広がる。
「な、なんだ……? 体が軽くなっていく……」
兄の傷がゆっくりと癒え、苦しそうな表情が和らいでいく。
「これで少しは楽になったはずだよ」
レオンが微笑むと、ユキの兄は驚きと感謝の入り混じった目で彼を見つめた。
「本当に、ありがとう……」




