第三十章 兄を探して
ユキは獣人であり、逃げている途中でレオンたちと出会った。最初は警戒していたが、少しずつ会話を深めることで心を開いていった。
その夜、焚き火を囲んで話をしていると、ユキはぽつりと自分の過去を語り始めた。
「わたしたち獣人は珍しい存在だから、人間たちにとっては高く売れるの。特にわたしたちの部族は、希少な血を持っているらしくて……。それで、狩りの対象になったの」
レオンや仲間たちは驚きと怒りを覚えた。モコがふるふると体を震わせ、コンが低く唸る。
「そんなひどいことが……」
レオンは拳を握りしめた。
ユキは静かに頷く。
「わたしには1歳年上の兄がいたの。でも、奴らに追われて、わたしを逃がすために別々になったんだ。それ以来、兄とは会えていないの」
ユキの声には悔しさと悲しみが滲んでいた。シルフィードがそっと翼を広げ、ユキを包むように風を送り、ルナがそばに寄り添った。
「お兄さんを探すのが、ユキの目的なんだね」
レオンがそう言うと、ユキは力強く頷いた。
「そうよ。兄さんがまだ生きているなら、絶対に見つけ出したいの。そのために手がかりを探しているの」
レオンたちは互いに顔を見合わせ、やがて頷き合った。
「だったら、僕たちも一緒に探すよ!」
レオンは笑顔で言った。
「えっ……いいの?」
ユキは驚いたように目を見開いた。
「仲間が困っているなら助けるのは当たり前だよ」
「そうだ、ユキ。一人で旅をするより、みんなでいた方が心強いだろう?」
フェンリルが優しく言葉をかける。
ユキはしばらく俯いていたが、やがて小さく笑った。
「……ありがとう。よろしく頼むわ」
こうして、ユキの兄を探すことが、新たな旅の目的となった。
翌日、森の中を歩いていると、レオンたちは人影を見つけた。
「……本当に、あの獣人は逃げたのか?」
「そうだ。だが、まだこの近くにいるはずだ。妹の方だけでも売れば相当な金になる」
陰から聞こえてくる会話に、ユキは息を呑んだ。
「……あいつら……」
レオンはユキの肩をそっと叩いた。
「落ち着いて。今は気づかれないようにしよう」
コンが耳をすませて囁く。
「どうやら、ユキの兄さんも逃げ延びたみたいだな」
「でも、あの人たちはまだ狙っているみたい……」
ルナが不安げに言う。
「急ごう。兄さんを探さないと……!」
ユキは決意を固めた。
冷たい風が吹き抜ける森の奥、傷だらけの青年が木の陰に身を潜めていた。
「ユキ……無事でいてくれ……」
青年――ユキの兄は、妹を逃がすために人間の追っ手と戦い、深手を負いながらもなんとか生き延びていた。奴らの追跡を撒くために、意図的にユキと別々の道を進んだのだ。
ふと、彼は木の幹に小さな刻印を残した。ユキが気づけば、きっとここにたどり着くはずだ。
「必ず……お前を見つける」
青年は傷を庇いながらも、森の奥へと足を踏み出した。妹を探すために、その気持ちだけで彼は前に進んでいた――。




