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第二十七章 森の奥の遺跡

 街を離れてしばらくすると、目の前には大きな森が広がっていた。緑が生い茂り、木漏れ日が優しく地面を照らしている。

「ここが噂の森か……思ったよりも静かだね。」

 レオンが呟くと、フェンリルが耳をピンと立てた。

「何かの気配がする……。」

 森の奥へと進むレオンたちは、古びた石の柱が並ぶ不思議な遺跡へとたどり着いた。遺跡は静寂に包まれ、苔むした石畳が月明かりに照らされている。風がそっと吹き抜け、まるで何かが見守っているかのような気配があった。

「ここは……?」レオンがつぶやく。

「……きゅん?」コンが不安そうに耳を立てる。

 シルフィードが静かに宙を舞いながら、何かを探るように目を細める。

「……この場所、何かの力を感じる。」

 その言葉の直後、遺跡の中央にある祭壇がぼんやりと光を放った。すると、空気が震え、眩い光が収束するように集まり、一人の人物の姿を形作った。

 そこに現れたのは、白銀の髪を持つ神秘的な女性だった。彼女は優雅に宙を漂いながら、静かにレオンたちを見下ろす。

「旅人よ……遥かなる時を超え、この地へとたどり着いた者たちよ。」

 その声は澄んでいて、まるで風のささやきのように耳に響いた。

「あなたは……?」

 レオンが一歩前に出る。

 女性は優雅に微笑み、ゆっくりと口を開いた。

「私はこの地を護る者。かつて神々と共に歩んだ者の末裔……アストリア。」

 レオンたちは思わず息をのんだ。神の末裔とは、一体どれほどの存在なのか。

「あなたたちに、あるお願いをしたい。」

 アストリアは優しく手をかざすと、遺跡の奥に続く扉がゆっくりと開いた。その先には、さらに古びた通路が続いている。

「この先にある『聖なる泉』の水が濁ってしまいました。何者かがその浄化の力を奪い、穢れを広げているのです。その原因を探り、聖なる泉を再び清めてほしいのです。」

「それを僕たちが?」

 レオンは驚きながらも、使命を感じた。

「あなたたちの心の清らかさ、そして絆の力が必要なのです。」

 アストリアは穏やかな眼差しでレオンたちを見つめる。

 ルナが尻尾を揺らしながら、「にゃっ」とやる気を見せた。モコやトトもそれに続くように頷く。

「よし、やってみよう!」

 レオンは決意を固め、仲間たちと共に遺跡の奥へと進んでいった。


 森の奥深く、霧が立ち込める扉の向こうの神秘的な場所にたどり着いたレオンたち。巨木が生い茂り、苔むした石畳の道が続いている。鳥のさえずりや木々のざわめきが耳に心地よく響くが、どこかただならぬ気配が漂っていた。

「ここが……遺跡の中?」

 レオンは目の前にそびえ立つ古びた石の壁を見上げた。刻まれた文字は見たことのない言語だったが、不思議と意味が理解できる。

『神の末裔が眠る場所。越えし者に祝福を与えん』

「……」

 ルナが小さく「にゃん」と鳴き、シルフィードはそっと風を起こして先に進むよう促す。レオンは仲間たちを見回し、決意を込めてうなずいた。

「行こう!」

 一行は広大な石造りの広場へと出た。そこには巨大な像が立っており、まるで生きているかのように光を放っていた。その像の足元には、一人の人物が佇んでいる。

「ようこそ、旅人たちよ。」

 透き通るような声が響く。その人物は銀色の髪を持ち、神秘的な衣をまとっていた。瞳は深い湖のような青色をしており、ただそこに立っているだけで周囲の空気が澄んでいくようだった。

「私はセラフィム。この地を護る者。そして、神の末裔の使徒でもある。」

 レオンは驚きながらも一歩前に出た。「セラフィムさん、僕たちは旅の途中でこの遺跡を見つけてアストリアさんに頼まれて……。」

「知っている。お前たちが来ることは、すでに定められていた。」

 その言葉に、もふもふたちも不思議そうに耳をぴくぴくと動かす。

「お前たちには、神からの祝福を受ける資格がある。」

「祝福……?」

 レオンが問い返すと、セラフィムは手を差し伸べた。

「聖なる泉が穢れにより力を失い、この地の魔力が乱れている。もし、お前たちが泉を浄化できれば、その対価として望むものを授けよう。」

 レオンは仲間たちと顔を見合わせた。

「僕たちならできる!」

 もふもふたちも、それぞれ鳴き声で賛同の意を示す。

 こうして、彼らは聖なる泉へと足を踏み入れるのだった——。


「この泉を浄化してもらいたい。」

 目の前には澄んでいたはずの泉が、黒く濁り、不吉な気配を漂わせていた。泉の中央には、不気味な影のようなものがゆらめいている。

「これを浄化するには……」

 レオンは泉を見つめながら考え込んだ。そのとき、シルフィードが静かに前に出た。

 シルフィードは大きく翼を広げると、優しい風が泉の表面を撫でた。しかし、それだけでは完全には浄化されない。

「原因を探らないと……」

 エドワードから学んだことを思い出しながら、レオンは周囲を慎重に観察した。泉のほとりには枯れた植物が点在し、空気にはかすかに鉄の匂いが混じっていた。

「何かが泉を汚しているんだ……」

 ルナが泉の端を嗅ぎながら、低く唸る。コンが地面を掘ると、黒ずんだ石が現れた。それを見たトトが針を立て、危険を察知したように小さく鳴いた。

「この石、何かおかしい……」

 レオンは慎重に石を拾い上げた。その瞬間、黒い霧のようなものが立ち昇り、泉の水がさらに濁った。

「これが原因か……!」

 モコが跳ねながら泉の縁に近づき、シルフィードが大きく翼を広げ、風を起こした。ルナが鋭く鳴き、コンが炎を纏って石を焼く。トトは丸まりながら、静かに振動するような動きを見せた。

 レオンがそっと手を泉にかざすと、もふもふたちの力が共鳴するように輝きを増した。やがて、泉の水が徐々に清らかさを取り戻し、黒い影がゆっくりと消えていった。

 泉が完全に浄化された瞬間、柔らかな光が周囲を包み、神秘的な存在が姿を現した。

「よくぞ穢れを祓ってくれました。我が願いを聞き届けてくれたこと、心より感謝します。」

 威厳を感じさせる存在――神の末裔は、レオンたちに向かって優しく微笑んだ。

「そなたらに報酬を与えましょう。願いを一つ叶えててあげます。何を望みますか?」

 レオンは迷わず答えた。

「仲間たちと、もっと言葉を交わせるようになりたい。」

 神の末裔は再び微笑み、その手をかざした。すると、もふもふたちの体が淡い輝きに包まれる。

「これで、そなたの仲間たちは言葉を紡ぐ力を得ました。」

 もふもふたちは戸惑いながらも、お互いの顔を見合わせた。

 モコがぴょんと跳ね、ルナがしっぽを揺らす。コンは興味深げに鼻を鳴らし、トトはくるりと丸まって落ち着いた様子を見せた。シルフィードは静かに翼を広げ、心地よさそうに目を細めた。

 レオンは嬉しそうに頷いた。

「これからもっとたくさん気持ちが伝えられるね!」

 試練を乗り越えたことで、彼らの絆はさらに深まった。旅はまだ続くが、これからの冒険がより楽しく、より意義深いものになることを、誰もが確信していた。

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