第二十六章 旅立ちの朝
朝の陽射しが穏やかに屋敷の庭を照らしていた。レオンは荷物を確認しながら、大きく深呼吸をした。
「さて、そろそろ行こうか。」
レオンがそう言うと、もふもふたちもそれぞれの仕草で応える。モコがぴょんと跳ね、ルナは尻尾をゆっくり揺らし、トトはくるりと丸まりながらも小さく鳴いた。コンが「きゅんっ」と鼻を鳴らし、シルフィードは風に乗るように軽やかに舞い上がる。
数日前、屋敷に滞在するきっかけとなった事件が解決した。常習犯と疑われていた冒険者たちは確たる証拠のもとに捕らえられ、街は再び平穏を取り戻した。リチャード大公が直々に調査に当たり、被害者たちも救済されたことで、人々の間にも安心が広がった。
「エドワードさん、アレンくん、みなさん……本当にお世話になりました。」
レオンは深く頭を下げた。
「えっ……? まさか……?」
アレンが不安そうにレオンの顔を覗き込む。
「俺たち、そろそろ旅立とうと思う。」
「そんな……!」
アレンの顔が一気に曇る。レオンの周りでは、もふもふたちが静かに耳をぴくりと動かしていた。レオンがやわらかく微笑みながら言う。
「ここでの時間はとても楽しかった。でも、僕たちにはまだ旅の途中だから。」
「でも、レオン……もう少しここにいてもいいんじゃない?」アレンはレオンの袖をぎゅっと掴む。「もっと一緒に遊びたいし……。」
「アレン……。」
「そうだな。お前たちは特別な存在だ。ここにずっといてくれても、誰も文句は言わんぞ。」エドワードも優しい声で言った。
レオンは微笑みながら首を振る。
「ありがとうございます。でも、俺たちには目指すものがあるんです。もっと多くのもふもふたちと出会い、助けてあげたい。」
エドワードはしばらく考え込んでいたが、やがて静かに笑った。
「……そうか。ならば、私からは何も言うまい。」
「うぅ……レオン、また遊びに来てくれる?」
アレンの目が潤んでいる。
「もちろん! アレンとは友達だから、また絶対に会いに来るよ。」
「約束だからな……!」
アレンは名残惜しそうにレオンの手を握りしめた。
「うん、約束。」
旅立ちの日、屋敷の門の前で、エドワードとアレン、そしてマリアンヌとリチャードも見送りにきていた。
「あなたたちのおかげで、私たちはまた笑顔になれました。ありがとう。」
マリアンヌがそっとレオンの手を取り、優しく微笑む。
「こちらこそ、たくさん優しくしてもらいました!」
リチャードはレオンの肩をぽんと叩いた。
「これからも無理をせず、君らしく旅を続けるといい。もし困ったことがあれば、いつでも頼ってくれ。」
「はい!」レオンは力強く頷いた。
「これを持っていくといい。」
エドワードがレオンに、小さな革の袋を手渡した。中には、旅に役立つ干し肉や薬草、そして王都の紹介状が入っていた。
「エドワードさん……!」
「感謝の言葉は要らない。お前たちが安全に旅を続けられることが、私の望みだよ。」
「ありがとう……!」
アレンは涙をこらえながら、モコのふわふわした体を撫でる。
「絶対に、また来てね!」
「うん! そのときは、もっとすごい冒険の話を持ってくるよ!」
そう言って、レオンは大きく手を振った。
アレンも涙を浮かべて手を振る。
「みんな、またね!」
レオンが手を振りかえすと、もふもふたちも、それぞれの仕草で別れを告げる。ルナは優雅にしっぽを揺らし、コンは胸を張って誇らしげに、トトは小さく手を振り、モコはぴょんぴょん飛び跳ねながら名残惜しそうにしていた。
シルフィードが静かに翼を広げ、風が優しく彼らの背中を押した。
「さあ、行こう!」
レオンの掛け声とともに、新たな旅が始まった。
彼らの行く先には、まだ見ぬ冒険と、新たなもふもふとの出会いが待っている。
レオンたちは街の門を抜け、新たな旅へと足を踏み出した。朝の空気は澄んでいて、遠くには小鳥たちのさえずりが心地よく響いていた。
「なんだか久しぶりの旅って感じがするね。」
レオンが伸びをしながら言うと、モコが「ぴょん!」と飛び跳ね、コンも「きゅんっ」と元気よく鳴いた。
「うん、エドワードたちには本当にお世話になったね。」
ルナがしなやかな足取りでレオンの横を歩きながら、静かに目を細めた。
「でも、やっぱり旅が一番!」
レオンは明るく笑いながら、足元の石畳を力強く踏みしめた。彼の周りを取り囲むように、もふもふたちがそれぞれのペースで歩いている。
「それで、次はどこへ向かう?」
フェンリルが久しぶりに話しかける。
「うーん……今のところは決まってないけど、そういえばエドワードが話していた森の奥にある遺跡って気にならない?」
レオンがそう言うと、もふもふたちが一斉に反応した。
「ぴょんぴょん!」(面白そう!)
「きゅんっ!」(冒険の予感!)
「ちくちく!」(危なくないかなぁ……?)
トトが心配そうに鳴いたが、ルナがすぐに
「にゃぁん」(大丈夫よ、レオンがいるもの。)
と優しく鳴いた。
「そうだね。僕たちならきっと大丈夫!」
レオンが自信たっぷりに頷くと、シルフィードも風に乗るようにひとつ旋回し、
「きゅるるる。」と嬉しそうに言った。




