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第二十四章 奥様との出会い

 エドワードを通じて紳士に連絡を取ると、彼はとても喜び、ぜひ屋敷に訪ねてきてほしいと快く招待してくれた。

「奥様も、きっとお会いすれば少しでも気持ちが和らぐはずです。」

 そうして、レオンたちはエドワードに付き添われ、紳士の屋敷へと向かった。

 立派な門をくぐり、重厚な扉の前に立つと、執事がすぐに扉を開けて中へと案内してくれた。奥の広間で待っていると、紳士が穏やかな笑みを浮かべながら現れた。

「レオン君、そして皆さん、お越しいただきありがとうございます。」

「こんにちは!」

 レオンが元気よく挨拶すると、もふもふたちもそれに続くように鳴き声をあげた。

「ぴょん!」「にゃあ♪」「くるるん!」「しゅるる……」「わうん……」

 紳士はそんな彼らの姿を見て、ほっとしたように頷いた。

「実は妻は、ずっと息子を亡くした悲しみから立ち直れず、部屋に閉じこもってしまっているのです。レオン君たちが来てくれたことが、何かのきっかけになればと思っています。」

「ぼくたち、奥様を元気にできるよう頑張ります!」

 屋敷の中は静かで、どこか寂しげな雰囲気が漂っていた。使用人たちが静かに行き交う中、レオンたちは紳士に案内され、応接間へと通された。しばらくして、ドアがノックされ、執事に呼ばれた奥様がやってきた。

「マリアンヌ、客人だよ。」

 紳士がそう声をかけると、細身の女性が現れた。彼女の顔には疲れがにじみ、深い悲しみが宿っていた。

「はじめまして、レオンです。」

 レオンが丁寧に挨拶すると、マリアンヌはかすかに頷いた。その隣で、もふもふたちも愛らしく鳴き声をあげる。猫のルナが柔らかく喉を鳴らし、うさぎのモコはふわりと寄り添うように近づいた。

「まあ……かわいらしい。」

 マリアンヌの表情がわずかに緩む。それを見たレオンは、旅の思い出を語ることにした。

「僕たちはいろんな場所を旅してきました。最初はフェンリルと出会って……それから、もふもふのみんなとも仲良くなって、いろんな試練を乗り越えたり、美味しいものを食べたり……。」

 レオンが楽しげに話すと、もふもふたちもそれぞれの思い出を表現するように鳴き声をあげる。マリアンヌは次第に微笑みを取り戻し、静かに話を聞いていた。

 やがて、彼女はそっと目を伏せ、小さく息をついた。

「……あなたたちのお話を聞いていると、まるで私もその旅をしているような気分になりました。」

「楽しい旅でしたよ。」レオンがそう言うと、マリアンヌは遠くを見るような目をして、静かに語り始めた。

「……私にも、あなたくらいの息子がいたの。」

 そう語る彼女の目には、深い悲しみと、そしてどこか懐かしさが滲んでいた。レオンと仲間たちは、静かに耳を傾けた。

「彼の名前はセドリック。とても優しい子でした。動物が大好きで、小さなころから庭で傷ついた小鳥や迷子の子猫を見つけては、せっせと世話をしていました。」

 マリアンヌの表情には、懐かしさと愛おしさが混じる。

「彼は夢を持っていました。立派な騎士になって、多くの人を助けるんだと。小さなころから剣の修行をし、知識を学び……。でも、ある日突然病に倒れてしまって……。」

 彼女の声が震える。レオンたちは、ただ静かに彼女の言葉を待った。

「……あの子は最後まで私を気遣っていました。弱音を吐かずに、私を泣かせないようにと。だけど……私はあの子を失ってしまった。」

 マリアンヌの瞳に涙が浮かぶ。ルナがそっと彼女の膝に乗り、モコがふわふわの体を寄せる。コンもやさしく尾を揺らしながら近づいた。

「……こんな私が、あの子の母親で良かったのかしら。」

「そんなことないです!」

 レオンは力強く言った。

「セドリックさんはきっと、お母さんのことを大好きだったと思います。だからこそ、最後まで心配させないように頑張ったんじゃないでしょうか。」

 フェンリルのフェンが低くうなり、小さく鼻を鳴らすようにして、マリアンヌを見つめる。

「あなたたち……。」

 マリアンヌの目から、ぽろりと涙がこぼれた。その涙は、どこか優しい温かさを帯びていた。

 レオンたちはマリアンヌの涙を見つめながら、そっと寄り添った。

「セドリックさんは本当に優しい人だったんですね。」

レオンが静かに言うと、マリアンヌは小さく頷いた。

「ええ、とても優しい子でした……。きっと、あなたたちとも仲良くなれたでしょうね。」

 その言葉に、ルナが甘えるようにマリアンヌの膝の上に丸まり、モコがぴょんと跳ねながら彼女の手をくんくんと嗅ぐ。シルフィードはふわりと霧を舞わせ、やさしく包み込むように寄り添った。

「セドリックさんも動物が好きだったって聞いて、きっと僕たちの仲間ともすぐ仲良くなれたんじゃないかって思いました。」

 レオンの言葉に、マリアンヌはそっとルナの柔らかい毛を撫でながら微笑んだ。

「ええ……きっとそうね。」

 突然、コンがぴょんと彼女の膝に乗り、くりくりとした瞳で見つめた。

「クゥーン!」

「ふふ、あなたも慰めてくれるのね……ありがとう。」

 マリアンヌの表情が少しずつ和らいでいく。そんな彼女の様子を見て、レオンは嬉しそうに笑った。

「ねえ、マリアンヌさん。僕たちと一緒に庭に出てみませんか?」

「庭……?」

「はい! セドリックさんも、よく庭で動物のお世話をしていたんですよね? きっと素敵な場所なんだろうなって思って。」

 マリアンヌは驚いたように目を瞬かせた後、ふっと目を細めた。

「そうね……しばらく外には出ていなかったけれど……。」

「だったら、久しぶりに一緒に行きましょう!」

 ルナが「ニャーン」と可愛らしく鳴き、モコが嬉しそうにぴょんぴょん跳ねる。フェンも静かにうなずきながら、その大きな体を寄せた。

 マリアンヌは少し考えた後、静かに立ち上がった。

「……じゃあ、少しだけ。」

「やった!」

  レオンはぱっと明るく笑い、もふもふたちも一斉に喜びの声を上げた。

 庭に出ると、そこには手入れの行き届いた美しい草花が広がっていた。しかし、どこか寂しげな雰囲気も感じられる。

「セドリックが最後にここに来たのは……もう何年も前のことね。」

 マリアンヌはゆっくりと庭を歩きながら、そっと手を伸ばし、花の香りを楽しんだ。

「ここで彼はよく本を読んだり、動物と遊んだりしていました。」

「素敵な場所ですね。」

「ええ……そうね。」

 そのとき、モコが何かを見つけたようにぴょんぴょんと跳ね、コンが興味深げに地面を掘り始めた。

「どうしたの?」

 レオンが近づくと、そこには小さな木箱が埋まっていた。フェンリルが鼻先で土を払い、レオンがそっと蓋を開ける。

「これは……!」

 中には、古びたノートと、一枚の絵が入っていた。

「セドリックの……日記?」

 マリアンヌが震える手でノートを開くと、そこには彼が大切にしていた思い出や、母への感謝の言葉が綴られていた。

『母さんへ。僕は、母さんのことが大好きです。いつも心配をかけてごめんなさい。僕がもし遠くへ行くことになっても、母さんには笑っていてほしい。』

 涙が、静かにマリアンヌの頬を伝った。

「セドリック……。」

 レオンたちは静かに彼女を見守った。

「……あなたたちが、ここに連れてきてくれたおかげね。」

 マリアンヌは涙を拭い、そっと微笑んだ。

「ありがとう……レオン君。そして、みんな。」

 もふもふたちは彼女の周りを取り囲むように寄り添い、彼女の悲しみを少しずつ包み込んでいく。

「僕たち、これからも旅を続けます。でも、またいつか会いに来てもいいですか?」

 レオンの言葉に、マリアンヌは優しく微笑みながら頷いた。

「ええ、もちろん。」

 その日、屋敷の庭には久しぶりに明るい笑い声が響いたのだった。

 その後、庭から戻るとエドワードと紳士が待っていた。

「お帰りなさい、どうでしたか?」 エドワードが優しく声をかけると、マリアンヌは微笑みながら頷いた。

「ええ、とても良い時間を過ごせました。」

「それは良かった。」 紳士も安心したように微笑む。

「もしよろしければ、今夜は皆さんもご一緒に夕食をいかがですか?」

 マリアンヌの申し出に、レオンたちは目を輝かせた。

「いいんですか?」

「もちろんです。ぜひ皆さんと楽しい時間を過ごしたいわ。」

 こうして、レオンたちは招かれ、温かい夕食の席につくことになったのだった。

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