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第二十三章 貴族の申し出

 市場での楽しいひとときを過ごした翌日、エドワードの屋敷に客人が訪れていた。

 エドワードとは親しい仲らしく、家族みんなで客人を迎えた。レオンとアレンも興味津々でその様子を見守っていた。もふもふたちもレオンの足元やソファの上でのんびりしている。

「エドワード、突然の訪問をお許しください」

 客人は優雅に微笑む、貴族らしい装いの紳士だった。背後には数人の従者を従えており、彼の立場が相当なものであることが一目でわかる。

「構わないさ、何か話があるのだろう?」

 エドワードが穏やかに尋ねると、紳士はレオンに視線を向けた。

「実は、私は数年前に息子を亡くしておりまして……彼とそっくりな少年を市場で見かけたと聞き、どうしてもお会いしたくなったのです」

「えっ?」

 レオンは驚いたように目を瞬かせた。アレンも隣で不思議そうな顔をしている。

「私はずっと、息子を失って以来元気をなくした妻のために、彼女を励ます方法を探しておりました。もし許されるなら、この子を我が家に迎えたいのです」

 屋敷の空気が一瞬静まりかえった。

「……レオンを引き取りたい、と?」

 エドワードが慎重な口調で確認すると、紳士は深く頷いた。

「もちろん、急な話であることは承知しております。しかし、彼の未来を思えば、私の家で立派な教育を受けさせることができる。貴族としての生活も保障し、不自由なく育てるつもりです」

 レオンは戸惑いながらエドワードの顔を見上げた。

「えっと……」

「レオン……お前はどうしたい?」

 エドワードの穏やかな問いかけに、レオンは考え込んだ。

 もふもふたちはレオンの足元に寄り添い、不安そうに鳴き声を上げる。

「わん……」(フェンリル) 「にゃあ……」(ルナ) 「ぴょん……」(モコ) 「しゅるる……」(シルフィード) 「くるるん……」(トト) 「こん……」(コン)

 レオンはぎゅっと拳を握りしめ、意を決したように口を開いた。

「……ぼくは、みんなと一緒に旅を続けたいです」

 紳士の顔が少し驚いたように動いた。

「そうか……君の意思が一番大切です。無理に連れて行くつもりはありません」

 彼は微笑みながらそう言ったが、その目の奥には何かを考えるような光が宿っていた。

 エドワードはレオンの肩に手を置き、しっかりと頷いた。

「この子の選択は尊重させてもらう。だが、ご厚意には感謝するよ」

 客人は静かに立ち上がり、最後にレオンをじっと見つめると、ゆっくりとその場を去っていった。

 その背中を見送りながら、レオンは小さく息を吐いた。

「ちょっと……びっくりした……」

「うん……」

 アレンも心配そうにレオンを見つめていた。

 しかし、その一件はまだ終わりではなかった。

 その夜、エドワードがレオンをそっと呼び寄せた。

「レオン、お前に伝えておきたいことがある」

 レオンが不思議そうに顔を上げると、エドワードは少し考え込んだ後、静かに語り始めた。

「実は、あの紳士の奥方は息子を亡くして以来、ずっと部屋に閉じこもってしまっているそうだ。彼は、そんな妻を元気づけるために、お前を迎えたいと考えたんだろう」

「……そっか」

 レオンはしばらく黙っていたが、やがてそっと微笑んだ。

「もし、ぼくが役に立てるなら……何かできることがあったら、してあげたい」

 その言葉に、エドワードは穏やかに微笑んだ。

「そうか。なら、考えてみるといい。お前ができることを」

 レオンはじっと拳を握りしめ、小さく頷いた。

 

 翌朝、レオンはもふもふたちと中庭で遊びながら、昨日の出来事について話していた。

「……それで、奥様はずっと部屋に閉じこもってるんだって」

 レオンがつぶやくと、フェンリルが静かに鼻を鳴らした。

「うーむ……」

「それって、すごく寂しいよね……」

 ルナがそっとレオンの膝の上に飛び乗り、にゃあと小さく鳴いた。

「ぼくたち、何かできないかな?」

 レオンがみんなを見渡すと、モコがぴょんと飛び跳ねて前足をぱたぱたさせる。

「ぴょん!ぴょん!」

「そうだね。ぼくたちが一緒にいたら、少しでも元気になれるかもしれないよね!」

 コンが尻尾をふわりと揺らしながら、くるるんと鳴いた。

「くるるん♪」

「みんなで会いに行ってみようよ!」

 レオンがそう言うと、シルフィードがしゅるると優雅に飛び回りながら頷いた。

「しゅるる……」

 こうして、レオンたちはエドワードに相談し、昨日訪ねてきた紳士に連絡を取ってもらうことにした。

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