婚約破棄?王太子?何を言っている?
誤字脱字報告ありがとうございます。あんなに見直したのに気付かないなんて面白いですよね(?)、助かります。
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2/7 ハイファンタジー 短編 日間ランキングで26位になってました!朝食を食べがてらチェックしてて目玉が飛び出ました。皆様ありがとうございます!
「今をもって貴様との婚約を破棄する!」
ガヤガヤとした喧騒の中、そんな声が響き渡って一気に場がしらける。あら、失礼、場が静まる、ですね。
しらける、といっても間違いはない気がするけれど。何故なら今日は王立学校が開校5周年ということで開かれた記念パーティだから。
王立学校とはその名の通り、王が設立された学校のことである。なんでも、貴族の学力の底上げや人脈をより広げることを目的にされて設立されたのだとか。
まあ、本当の目的は自分の息子があまりにもアホで勉強嫌いだからそれを克服させる、それに尽きるらしいけれど。勉強嫌いが、同い年ばかり集まる所に行くと遊ぶことの楽しさを覚えて余計に勉強嫌いになる可能性は考えなかったのか。はたまたアホになるか賢くなるかの賭けに出たのか。
さて、その賭けに勝ったのは誰か。もちろん、負けたのは王であろう。それは明白である。
「あら、この記念すべき日に何を仰っているんですか。第一、わたくしと貴方の婚約は破棄できませんわ」
賢いのならば、こんな騒動を起こすはずがないのである。
「何を言う!私は明日の立太子の礼をもって王太子となる!その私が言うのだ!いくら貴様が拒否しようとも、この婚約は破棄となる!」
この王国に住んでいる者なら、誰もが口を揃えて言うだろう。それは無理だ、と。
そしてこのバカ王子が次に言い出すであろう言葉も容易に分かった。
「そして!私はここにいる令嬢と結婚することをここに宣言する!」
でしょうね。でなければ横にいかにも頭の悪そうな令嬢を侍らせていないでしょうし。
「いいえ、殿下。何度でも言いますが、わたくしとの婚約は破棄出来ません。そもそも、明日の立太子の礼は——」
「うるさい!この私の決定に楯突く気か!」
ギャーギャー騒いでいるバカ王子、もとい弟に近付く。弟は相当興奮しているのか、私がそちらに向かっているのに気づきもしない。もうその時点で阿呆である、間抜けである。私が1人で行動するわけないので、それなりに足音は聞こえているはずであるのに。
助けてくれと言わんばかりの目線に答えるように軽く頷く。
「お前は何を言ってるんだ」
バシッと良い音が鳴り、弟の頭は揺れた。
見栄えにこだわったこの扇子は宝石が散りばめられている。その衝撃で私の手は少し痛いし、絨毯にいくつかの宝石が落ちた。
残念、これ気に入ってたのにな。これも弟のせいである。こんな阿呆でも、肩書きは第一王子であるからこの愚行を止められるのはそれよりも位が高い者でなければならない。
「あ、姉上!いきなり何をするのですか!」
痛そうに頭をさする弟。そりゃ痛いだろう。いくら綺麗といえど、鉱石、石だからね。
「此奴を連れ出せ。あとその横の女も」
明日の立太子の礼をもって王太女となる私は、今この場にいる中では1番権力が高い。その私が言うのだから、ただの一王子も容赦なく連れ出した。
阿呆のせいで静まり返ったパーティを再び始めようと、声を出す。
「さて、我が弟はなにやら寝ぼけていたようだ。きっと、夢の妖精に揶揄われたのであろう。
——皆のもの、今日は祝いの場である。乾杯をしよう」
定位置にもどり、乾杯の音頭を取る。
本来の賑やかさを取り戻した会場を見下ろしながら、グラスの中に入っているアルコールを少し飲む。
夢の妖精。寝ぼけていてこんなことをしてしまった、あんなことを言ってしまった、なんて時に使う表現の一つである。それを言ったところで、言い訳にしかならないし、何も解決はしない。
だって、寝ぼけていたとしても、その自分が行った言動はどう考えたって自分の責任であるから。
なぜあんなことを口走ったのかは先ほど、近衞騎士の者から速報として伝えられた。どうやらあの横にひっついていた女が「あなたこそが王に相応しいわ!あの優しそうな王女様が王だと威厳がないからあなたが王になればいいのよ!」とほざいてたのだとか。
それにまんまと「それもそうかも。今もお父様が王だし、勉強も俺出来る方だし?」となんともまあ阿呆な思考をしてその話に踊らされたらしい。
さて、あの愚弟の責任の取らせ方は私の王太女としての初仕事になりそうである。実兄弟ではあるものの、朝食を共に食べ、たまに一緒の空間にいる奴、ぐらいの認識なのでそこまで情はない。
奴の今日犯した罪の中で最も重いのは反逆罪であるので死刑が妥当である。が、仮にも兄弟であるので通常のギロチン刑ではなく毒杯を仰がせるのがベターであろう。
あの小娘はあのような考えを持っていたのにも関わらず、家族はそれを諌めなかった。一族死刑が妥当。そしてあの小娘の言う通り、私は優しいので公開処刑はあの小娘と実親のみにしておこう。あまりにも小さい妹か弟がいた場合は、やはりここも温情を見せて毒杯がベターか。
ある程度、優しさを見せることで敢えて隙を作るのだ。その隙を狙ってくるやつを一掃するために。
そこまで考えて、やめた。
今日はめでたいパーティーである。気難しい顔をしていたら、それを見た皆が楽しめない。
愚弟の婚約者、いや元婚約者がこちらに向かってくるのが見える。
笑顔を携えながら、この娘にはちゃんとした縁談を用意しなければ、と国内独身貴族をリストアップしていく。
さあ、イレギュラーなことを愚弟が行ったおかけで仕事が増えたが、これもまた後々に私の評価に繋がるのだ。気合いをいれていかねば。
難しい顔になっていたことに気づいて、再び笑顔を顔に装備した。