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8 グレン・ブラックウッド

※AIを使用して執筆しています。

 その日の深夜、月明かりも薄い薄暗い路地に佇む「ノーダウト」という酒場。外からはあまりに怪しげな雰囲気が漂い、外界の喧騒とは切り離されたような場所だ。店の内部は薄暗く、煙草の煙とアルコールの匂いが立ち込めており、壁には黒ずんだ古びた装飾が施されている。ならず者たちや裏社会の住人たちが集まり、互いに声を荒げながらも秘密を守り合う場として知られている。


 その店の隅っこ、一番奥の席に、一人の男が座っていた。普段の正装からは一転、薄汚れた灰色のローブを身に纏い、フードで顔を深く覆い隠している。その姿からは普段の優雅さや紳士的な振る舞いは一切感じられない。ただ、隠されたその瞳だけが周囲を冷静に見渡し、まるで誰かを待っているかのように落ち着いた様子で座っている。

 

 グレンはテーブルの上に小さな灰皿を置き、そこに煙草を挿していたが、それに火を点けることはなかった。彼の視線は時折店の入り口に向けられ、誰かが現れるのをじっと待っていた。


 やがて、入り口から一人の男が現れた。彼は無精ひげをたくわえ、少し小太りの体形をしている。皺の寄ったワイシャツに古びたスーツを着ており、立ち居振る舞いからは生活に疲れた感が漂っていた。頭は光沢を持つほどに禿げ上がり、目元には常に警戒心を帯びた鋭さが宿っている。男はグレンの向かいの席に腰を下ろし、机に書類の入った封筒を置いた。その動作は素早く、無駄がなかった。


 男が口を開くと、その声には馴れた感があり、グレンとの関係の長さを感じさせた。


「よぉ、ブラックウッドの旦那。ご所望の物持ってきたぜ。」


 グレン・ブラックウッド――それはグレンがこうして裏社会で情報をやり取りする際に使用する名である。


 グレンはさりげなく封筒を受け取り、その内容を慎重に確認する。書類を一枚一枚めくりながら、視線は一切の感情を含まない冷静なものだった。男はその間、灰皿に置かれた煙草を口にくわえ、マッチで火を点けると、ゆっくりと煙を立ち上らせていた。


 そしてグレンは書類を確認しながら男に向かって問いかける。


「これは全部確かな情報か?」


 男はグレンの問いかけに対して、少し得意げな表情を見せながら、自分の努力を誇らしげに語り始めた。彼の声は粗く、まるで喉の奥で絞り出しているような響きがあった。煙草の灰が机の上にポロポロと落ち、周囲の薄暗い光の中でその姿が一層怪しく映る。


「安心しな。位の高いやつが保管してあった書類をそのまま写してきたんだ。間違いねぇだろう。いやぁ、軍の情報盗むのも一苦労だぜ。しかもそれをコツコツ少しずつ写してだな? ちょっとした根気がいるんだ。」


 男は自分の苦労を誇らしげに語り続けた。その無精ひげに埋もれた口元には、自分がいかに困難な仕事をやり遂げたかという満足感が滲んでいた。目の周りには目立つクマがあり、長い間の睡眠不足と過労を物語っている。彼の服装はボロボロであるが、その話し方にはそれを補うだけの自信が満ちていた。


 グレンはそのまま黙って書類に視線を落とし、特に気になる箇所をじっくりと確認していた。すると、書類の中にエミリアについての情報が記されているのを見つける。彼はその部分をじっくりと読み込み、慎重に考え込む。


エミリア・レイヴェルク(18)

家族構成:父、養母、異母妹

近年貿易事業を拡大し、伯爵の称号を授かったレイヴェルク家の長子。

社交界には極力参加せず影が薄いものの、レイヴェルクの長子は異能持ちという話が広まっており、その名前だけが独り歩きしている状況。

「アナバリス」所属。階級:特務騎士

能力が後方支援向きではないことから、女性にしては珍しく自ら前線に立っている模様。


 そして、再び男に目を向け、冷静な声で問いかける。


「能力の詳細については?」


「いや、それがそこまでは書かれていなかった。」


 男は肩をすくめながら、口の中でタバコの煙をクルクルと回すような仕草を見せた。彼の表情には少しの不満が滲んでいるが、どうしようもないことに対しては開き直った様子を見せていた。


「軍の情報はかなり慎重に取り扱われてるんだ。能力の詳細まではなかなか手が届かねぇ。だけど、その情報が出回ってるって話を聞いたことがある。どこかで手に入るかもしれねぇな。興味があるなら、他の情報源を探してみるのがいいだろう。」


 グレンはその言葉に納得したように頷き、淡々と口を開いた。


「そうか……。だが、ここまでの情報を掴むのは流石としか言えないな。今日は俺が奢ろう。」


 男はその言葉に目を輝かせ、喜びを露わにした。


「お?いいのかぁ?!じゃあお言葉に甘えて……おーい!酒持ってきてくれぇ~!いい酒を頼むぜ~!」


 陽気な注文を放った男は、グレンの横顔をちらりと見ながら興味津々に訊ねた。


「にしても旦那よぉ。軍の情報なんて誰に渡すつもりなんだ?いい上客でもいるのか?」


 グレンはその問いに対し、無表情を崩さず淡々と答えた。


「…………顧客情報を渡すわけがないだろう?」


 その言葉には、自己の目的で情報を集めているという事実を隠しつつ、あたかも他に情報を欲しがる客がいるかのように濁す意図があった。グレンの口元にはいつもの微笑みはなく、表情はまるで冷たい岩石のように硬く、感情の揺らぎを見せなかった。


「ちぇ……俺にも紹介してくれてもいいのによぉ。まぁいいや。そゆとこ旦那に信頼がおける理由だしな。」


 男は口をとがらせて不満を漏らした。しかし、すぐにその表情は一変し、グレンへの信頼の意を込めた言葉が続いた。男の言葉には、情報を扱うにあたり一切の妥協を許さないグレンの姿勢に対する感心がにじんでいた。彼の態度からは、表面の不満を超えた深い敬意が伝わってくる。


「そういや、旦那、知ってるか?」と注文した酒を受け取りながら男が話を切り出した。その顔には何かを思い出したような軽い気持ちが浮かんでいる。


「今度クリストフ家でダンスパーティがあるとよ。」


 グレンは少し興味を引かれたようにその話に耳を傾けた。男は続けた。


「なんでも、そこの長男が異能力持ちなのに今度司令官に昇進したから、それの祝いのために盛大に開かれるとかなんとか。まだそいつは29だってよ。よくやるぜ~。おっさん泣けてきちゃう。」


 男は軍関連の話題を世間話のように、そしてコミカルに語りながら、自身の年齢を理由に感傷に浸る様子を見せた。表情には少しの痛みが混じっていたが、それはどこか演技じみていて、笑い話のように扱われていた。


「それはいつ開かれるんだ?」

「ん~?確か……5日後だったかね。」


 男は指で日付を確かめるような仕草をしながら答えた。


 グレンはその言葉を受け、記憶をたどるように考えを巡らせる。確か、自分のところにもクリストフ家からの招待状が届いていたような気がする。その情報を思い出し、何か考え事をするように、無表情で黙っていた。


 グレンは手元の資料に視線を落とし、注意深くページをめくっていった。そこには様々な情報が記されており、その中でひときわ目を引いたのが「ジルベール・クリストフ」という名前だった。グレンは目を細め、記述を追い始める。


ジルベール・クリストフ(29)

家族構成:父・母・弟・妹

貿易を中心とした商業で巨大な財閥を築いているクリストフ公爵の長子。

社交的な性格であり、異能者ではあるが持ち前の親しみやすさと、若い年齢ながら上官にまで上り詰めた功績から社交界でも軍内部でも非常に人気がある。

「アナバリス」所属。階級:特務指揮官→司令官

能力も司令官向きであり、今後の活躍に期待されている。


 グレンは目を細め、薄く微笑みを浮かべることなく資料を閉じた。そして男に向かって静かに言った。


「なるほど、興味深い情報だ。ありがとう。」


 男はそれに気づかず、無邪気に「どういたしまして」と言った。その表情はまた酒を楽しむことに戻っていた。


 薄暗い酒場の中で、男は酒を大量に煽り、その酔いに任せて机に突っ伏して眠りについていた。いびきが響き渡り、酔っ払いの姿はまるで滑稽なほどだった。グレンはその様子をちらりと見て、感慨深げな表情を浮かべることなく、静かに店の扉を開けて外へ出た。


 外に出ると、夜の帳が降りた街並みの中、月明かりがぼんやりと路地を照らしていた。グレンはその光景を眺めながら、何かを思い出すように目を細めた。月の淡い光が、彼の顔を冷たく映し出し、深い思索にふけっているような印象を与えた。


 彼はゆっくりとした足取りで、静かな夜の路地を歩き始める。その歩みには迷いがなく、目的地へと向かう強い意志が感じられる。月の光が、彼の思索の一部となり、様々な計画や考えが頭の中で静かに巡っていることを物語っていた。

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