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四次元の絵の具

作者: unbeautyeye

 なにかを表現するということは素晴らしい。だから芸術というものが昔から連綿と続いてきた。文芸だってその一部だし、音楽だってその一部だ。


美術という芸術形態は、紀元前3000年ごろから存在する。古代の人間は壁に絵を描き、何かを伝える。現代になってもその絵は残り、意味を持ち続けているのだ。




 2122年、ある画材会社が、画期的な商品を開発した。それは、「四次元のアクリル絵の具」である。当初、この発表は、世間にまともに受け取られていなかった。四次元のものなんてこの世にないからだ。人々は、それをばかばかしいと捉えていた。「四次元」と名付けたのは客の目を惹きつけるためだと、皆は思っていた。しかし、実際にその商品は四次元のものであったのだ。


 その絵の具は普通に絵を描くことができる。発色がよく、色味が良い。のびも良いため、描きやすい。芸術家たちが好みそうな絵の具である。それだけの特徴でも十分であるが、なんといってもこの絵の具は「四次元」のものである。「四次元」とはどういうことなのだろうか。発表会で広報係が得意げに説明した。


 「この絵の具は、ただの絵の具ではございません。なんと、時間が経つと消えるのです。「四次元」というのは、三次元空間だけでなく「時間」も利用できることを意味します。」


 発表会に居合わせた記者たちがざわめく。皆が広報係の言っている意味が分からなかった。広報係は続けてこう言った。


 「信じられないと思いますが、この絵の具が「四次元的」であることには間違いありません。この絵の具には存在時間があります。1ヶ月経ちますと、発色しなくなります。透明になるわけではないのです。絵の具自体がなくなります。」


 広報係は自慢げに語る。


 「皆さんには、試供品として、6色の絵の具を提供したします。ぜひご自身で使用してみてください。」


 記者たちに絵の具が配られる。皆があっけにとらわれていた。


 発表会が終わると、記者たちは絵の具をキャンパスに塗る。そして、1ヶ月経つと、その絵の具は見えなくなった。触ってもキャンパスの生地の感じそのままである。いよいよ、世界中でこの絵の具が話題になる。




 こんな面白い画材に、世界中の画家が夢中になった。ある有名な画家は、その絵の具を使い、非常に美しい絵画をこしらえた。そして、オークションに出品すると、信じられない金額で落札されたのだ。たった一ヶ月ほどの美しさに、人々は魅力を感じた。その絵の具で描いた絵画は、儚い美しさを纏うようになったのだ。


 数年後、その絵の具の廉価版が開発され、一般人も使うようになった。廉価版は、1週間ほどで消えるものだ。ストリートアーティストたちが、街中のシャッターや壁にその絵の具で絵を描いた。落書きのようなその無数の絵は、人々を困らせたが、1週間も経てば消えてしまう。博物館に飾られる素敵な絵も、この絵の具を使っているのなら、1週間で見ることができなくなる。新しい絵が飾られるたびに、人々はその絵に注目する。短命さをもった絵には生命が宿った。


 この絵の具が人々の手に渡るようになってから、芸術の多様性が高くなった。そして、芸術のもつ力というものが非常に大きくなった。



 数百年後、もう人類はいなくなっていた。芸術が盛り上がる一方で、政治は混乱し、世界大戦が起こったのだ。信じられない量の爆弾が降り、考えられないような惨状が毎日のように繰り返された。そして、人類は滅亡した。



 X星人たちは、その後の地球を見つけた。X星人たちは、高度なタイムスリップの技術を有している。荒廃した地球の街をタイムスリップしてみると、いたるところに絵が描かれていた。X星人たちは、感動した。そして、その絵たちを持って帰ろうとした。額縁に入っている絵やシャッターに描かれたものを丸ごと、持って帰ろうとしたのだ。しかし、残念なことに、時間を戻すと絵だけが消えてしまった。残ったのは、ただの額縁やシャッターのみ。X星人たちは、何度試みても駄目であった。だから仕方なく写真を撮って、星に帰ることにした。


 なんということか、地球の芸術は素晴らしいものであったのに。美しいものを生み出していた地球人はもういない。残ったものは荒廃した灰色の街であった。


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