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あだばな  作者: 藤泉都理
11/11

なまえ












「俺は、おまえを、殺したくなる。突発的に。唐突に。俺を殺したおまえを。俺をおまえにしたおまえを。こんな訳のわかんない事に巻き込んだおまえを。俺を殺すおまえを。俺を人間に戻すおまえを。俺をポメラニアンにするおまえを。おまえが居なくなったら、俺は、歓喜するし、絶望する。俺は俺が曖昧になってなくなって、人間で居られなくなる。そう、わかっていても、俺は、おまえを、殺したくなる。殺したくなった時、俺は、俺を、止められない。だから」




 ぜんぶ、ぜんぶ、俺の為。

 おまえの為には、ぜんぶ、ぜんぶ。


 俺にとっても、おまえにとっても、これからの人生。

 ぜんぶ、ぜんぶ。

 あだばな。




 それでも、

 例えば、実を結ばない、花であったとしても、

 実を結ばない花が、無価値だと、責められたり、嘲られたり、憐れまれたりしても。

 虚無感に苛まれても、

 そうと、わかっていても、




「俺に、夜明けを拝ませろ。俺に、朝を拝ませろ」


 俺は、俺を見た。

 ポメラニアンから人間に戻った俺は、俺に転生したおまえを見た。

 俺は、咄嗟に喉を守って血を流すおまえの腕を見た。

 俺は、俺を殺したおまえを見た。


「………俺は、夜明けが嫌いだ。朝が嫌いだ」

「ああ、日記に書いていたな」

「俺は。俺は、希望を見た。希望の中に居る。もう、絶望に落ちたくない。だが、希望にも絶望にもなるおまえと一緒に居なければ、俺は、人間に、なれない。おまえが居なければ………俺が、おまえを………本当に、」




 土下座をするならきちんと土下座をしろ。

 それじゃあ、地面に蹲っているだけだろうが。


 口に出したのかどうか、わからない。

 ただ、おまえはもう一度だけ言った。

 深く、濃く、言った。

 俺にきちんと届いた。

 拒む暇すらなかったのか。

 拒んでも尚、届いたのか。

 おまえの方が人間らしいよ。

 すまない。

 そう言ったおまえに、俺は、俺の心の中で、言った。

 相手を考えて、言葉にした、行動したおまえの方が、人間らしいよ。

 俺は、俺の事しか考えられないから、人間ではないらしいよ。




(いつか………いや、きっと、俺は。なあ、俺は、俺を殺したくない。だから、)




「おまえが俺を人間にしろ」

「………ああ」


 呑み込んだ音がした。

 言葉を呑み込んだ音。

 きっとおまえは、言いたかったのだろう。

 訴えたかったのだろう。

 おまえも俺を人間にしてくれ。

 そう、

 けれど、おまえは、吞み込んだ。

 そうだ、おまえにそれを言う権利なんて、ありはしない。

 そうだ、そうだ、そうだ。

 殺人者のおまえに、拒む権利なんて、ありはしない。


 深く、ふかく、堕ちて行く。

 正しいはずなのに、

 望んでいる。

 深く、ふかく、堕ちて行く事を。

 望んでいる。

 共に、深く、ふかく、堕ちて行く事を。


 いいや、いいや。

 いやだ、いやだ。


 俺を堕としたおまえが、俺を、


 目を逸らすな。俺を見ろ。

 俺も、目を逸らさない。おまえを見る。

 希望を見る。

 絶望を見る。




「俺の名前は、」




 俺の名前を言って、おまえの名前を聞く。

 希望を、見る。











(2024.6.11)




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