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酔仙楼詩話  作者: 吉野川泥舟
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 ひとたび墨を磨れば鬼神も涙を流して転げ回り、ひとたび筆を下せば天女も頬を染めて腰をくねらせるといったありさま。子柳の溢れんばかりの才を慕って、弟子入りを志願する者、家庭教師として招こうとする者、たくさんの人が面会にやって来ました。子柳のあばら屋では到底さばききれません。


 しかし子柳は首を縦には振りませんでした。彼は生まれついて素直な性格であり、母親の教導によって謙虚な若者として成長していましたが、ひとつだけ、自信の持てないことがあったのです。これが、彼の性格をやや内向的なものにしていました。


 それは他者とのコミュニケーションでした。

 人前で話をすることがことのほか苦手だったのです。


 頭の中に、心の中に、たくさんの言葉があり、それを人に伝えたいと思っても、自分の思い通りの言葉として紡げないのです。どうしても、滑らかに話すことが出来ません。子柳は悩みました。苦しみました。そして、彼は誰にも負けない努力をして、あらゆる書物を読みあさり、己の知識として蓄えたのです。彼の人並み外れた記憶力は、このようにして培われたのでした。


 子柳はいつも携帯用の筆墨と紙を持っていました。ひとつには、上手く話せないときの筆談用として。もうひとつには、彼は作詩を嗜んでいたので、自然であれ人であれ、美しいと感じたものがあれば、そのようすを書き記すためでした。


 昔、唐の時代に李賀という詩人がおりまして、出かけるときはいつも錦の袋を背負っておりました。李賀は思いついた詩句があればすぐに書きとめ、背中の袋にしまったといいます。子柳はその故事に倣ったのでした。


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