表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
酔仙楼詩話  作者: 吉野川泥舟
30/39

28

 そんなある日のことでした。子柳の部屋に、宿の主人が渋い顔をぶら下げてやって来たのです。不思議に思った子柳の耳に告げられたのは、宿から出て行って欲しいという話でした。


 青天の霹靂とばかりに驚きうろたえる子柳に、主人は冷ややかな口調でこう話しました。


「あんたの故郷で変事があってね。楚興義さまはあらぬ嫌疑をかけられて、失脚なさったんだ。楚興義さまからの支払いが見込めないとなれば、いつまでもあんたをここに住まわせておくわけにもいかん。だいたい払えないだろう? 女に入れ込んだあげく、借金までこさえちまったんだからな。いかに同郷のよしみとはいえ、オレももう限界なんだ。神童だの麒麟児だの騒がれたみたいだが、所詮はすれてない田舎者。長安に飲み込まれたあんたは、とっとと故郷へ帰っちまうのがいい。まあ、路銀はないかもしれんがね。さすがにそこまで面倒見てやる義理もねえ。ほら、わかったら出ていきな」


 昨日の友誼はもろくも潰え

 無情をなじるにも資格なし

 

 急かされるようにして荷物をまとめ、路上に放り出された子柳の背中に、


「ついでに言うと、あんたの母親は亡くなっちまったそうだ。全く、とんだ親不孝者がいたもんだぜ」


 子柳は頭を殴られたかのように感じました。目の前が真っ暗になり、膝がわなわなと震えだし、到底立っていられません。そのまま地面にくずおれ、両の手を突いたままただ呆然とするばかり。掌には乾いた土の感触、そして甲には雫が一つ二つと滴りました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ