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酔仙楼詩話  作者: 吉野川泥舟
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 子柳は元来淡泊な性格で、物欲などはまるでなかったのですが、あの日三人の女仙から贈られた扇子だけは絶対になくさないよう大切にしておりました。毎日寝る前に取り出して、うっとりと眺めては、悦に入っていたのです。


 少し前のことですが、子柳は乾いた墨跡を観賞しながら、ニヤニヤと笑みを浮かべておりました。そこへ、隣室に泊まる翔鷹が入ってきたのです。これといった用事などなく、借りていた本を返しに来ただけでした。しかし、子柳の様子を見た翔鷹は俄然興味をかき立てられたのです。


「何だかずいぶんご執心じゃないか。ははあ、さては流行の絵師にでも書かせた春画かい? そいつは僕も見逃せないな。女性にはまるで興味なさそうな君が夢中になるくらいなんだから」


 そう言うなり扇子を取り上げようとします。慌てた子柳、取らせまいと体をねじりました。嫌がられると意のままにしたくなるのが人の性。この翔鷹も例外ではありません。何とか取ってやろうとしましたが、大人しいはずの子柳が懸命に抵抗するので、少しやり方を工夫することにしたのです。


「わかったよ、もうしない。謝るよ、悪かった。あまりに熱心だから、ついからかっただけだよ。それにしても、君をそこまで夢中にさせるんだ、その扇子は間違いなく逸品なんだろう。はは、天上に住まう仙人たちの宝物も色あせるくらいにね」


 押してだめなら退いてみろ、とは古人の言でありますが、効果は往々にしててきめんです。この場合も、子柳の心をくすぐるには十分でした。心中ひそかに、誰かに自慢したくてならなかったのです。そこで子柳は、絶対に手を触れないこと、息を吹きかけないことを念入りに約束させてから、翔鷹に見ることを許可したのでした。


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