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酔仙楼詩話  作者: 吉野川泥舟
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 今夜もいそいそと酔仙楼へ出かけようとする子柳でしたが、その背中に宿の主人が待ったをかけました。


「子柳どの、あなたも長安人士の噂に上るほどの才人、私のような者がお諫めするのもどうかと思いますが」


 主人は連日酔仙楼へ上がっては、夜遅くに帰ってくる子柳のことを心配するあまり、とうとう注意を促すことにしたのでした。


「言うまでもありませんが、貴方さまは楚興義さまから援助を受けて遊学する身。それをこう毎晩のように飲み歩いては、本分であるはずの学問もさび付いてしまいましょう。故郷の母上もきっと心配なさいます。文人たるもの、社交にお金がかかるのは当然のこと、遊び慣れた方が洗練されますし、どこでどんな繋がりができるかわかりません。そこは重々承知しておりますが、どうかもう少しご自重頂ければと」


 子柳、たちまち顔から火が出るかと思いました。裾をつかんでもじもじしてしまいます。主人の言うことはもっともであり、何の反論もできないのですが、酔仙楼三階の集いは何物にも代えがたい魅力がありました。ただで山海の珍味を味わえるのもありがたかったのですが、それ以上に、自分の詩作がめきめき上達することに子柳は言い得ぬ喜びを覚えていたのでした。


「まあまあ、ご主人。そう詰め寄るものではないよ。ほら、子柳どのも困っているではないか」


 子柳と主人がその声の方を向くと、そこには瀟洒な着流しに身を包んだ、年の頃は二十代後半に見える青年が立っていました。手にした扇を揺らめかせ、微笑みを湛えながら、


「確かに子柳どのはずいぶん遊びが過ぎるようだ。毎晩のように、あの酔仙楼で豪遊していると伺っている。しかしながら、ご主人にもすでにおわかりのように、我々は風流を愛する者、どこの宴席でどんな高貴な方と繋がりができるか分かりはしない。子柳どのはきっと酔仙楼で素晴らしい出会いがあったのだろう。だからここは目をつぶってやってはもらえないだろうか。もし身を持ち崩すようなことがあれば、この僕がきっちり諫めるから」


 この青年、姓を周、名を翻、字を翔鷹と申す四川出身の書生で、人付き合いのいい気さくな性格なのですが、軽薄なのが玉に瑕。田舎から出たばかりの子柳に遊びを指南したのも、この翔鷹なのでした。


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