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酔仙楼詩話  作者: 吉野川泥舟
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14

 その答えに、子柳は胸が高鳴るのを感じました。


 深々と頭を下げ、

 

 ――早速のお聞き届け、誠にありがとうございます。もしかして貴方さま方は、伝説に名高い仙人さまでいらっしゃるのではないでしょうか。


 すももは黙ったまま、子柳の瞳に視線を注いでいます。口の端に小さな笑みが浮かんでおりました。しびっちは腕組みをして小さくうなずいています。


 ――わたくしはまだまだ学が浅い未熟者ではありますが、古今の書物のほとんどに目を通し、あらゆる知識を蓄えて参りました。しかしながら、お二方の話される言葉には、未だかつて耳にしたことのないものがいくつかございました。これは、もしかして、天上世界で使われている、神仙専用の言葉ではと愚考致しました次第にございます。そして、何よりも、お二方は話すのが苦手なわたくしのおもいを汲み取って下さっております。いかがでありましょうや。


 少しの沈黙が流れました。すももの顔がみるみるうちに紅く染まります。やがて堰を切ったかのようにして大爆笑を始めました。


「ちょっと、姉さま! もう。あのね子柳君。さっきの言葉は」


「ふひゃひゃ、よいではないか。そうそう、それよ、ばれたら仕方ないのう! ワシらは仙人なのじゃ。つまりな、ビッチやら陰キャやらは、全て天上世界の言葉なのじゃ。いやあ、そなたなかなかの慧眼よな!」


 子柳は慌てて席を立つと、跪いて叩頭を始めました。


「姉さま、それはいくら何でも」


「細かいことは気にするな。面白そうじゃから、しばらくはこの設定でいくぞ」


「ええ……」


 叩頭を繰り返す子柳に立つよう促すと、すももは咳払いを一つ入れて、厳かにこう言ったのです。


「よいか。ワシら二人のことについては、決して他言してはならぬ。見たところ、おぬしも科挙を目指す学生であろう。ならば、日ごとにここへ足を運び、ワシらを手本として世の道理を学ぶがよいぞ。学を磨き、己を高め、天下国家の柱石となれるよう、たゆまぬ努力を重ねるのじゃ。そうさな、とりあえずは『一飲三百杯』からじゃな」


 きしし、と含み笑いを漏らすと、


「おお、ようわかっておるではないか、そなた。そのとおり、これぞそなたが敬愛してやまぬ李太白の『将進酒』の一節じゃ。うむうむ、ならば何の問題もない。いやむしろ素質しか感じられぬ。ここは酔仙楼じゃしな!」


「すぐ調子に乗るから気をつけてね、子柳君。それと、あたしたちは仙人だから、あなたの言いたいことがわかるの。念じれば通じるから、どんどん話して大丈夫だからね」


 子柳はあまりのことに踊り出さんばかり、目を輝かせてしびっちの顔を見つめています。


「ま、そういうわけじゃ。では飲み直しと参ろうか……これ、しびっちよ。疾く疾く店員を召喚せよ」


「……そう厳かに言われましても」


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