第三の相談:鍛冶屋の悩み(相談編1)
「…」
くたぁと俺はテント内で横になっていた。
「…ぁぁー…日差しがいい感じに暖かい…」
しかもテントだからか、良い塩梅の温度に…
もはやこれは寝るしかあるま
「ルート殿!」
…騒がしいのが来たなぁ…おい…
「…なんだよ…こんな真っ昼間から…相わらず元気だなぁ…」
「お昼だからこそ動かないとなっ!」
「…オッサンには辛い現実だわ」
「現実は真っ直ぐ見るものだぞッ。ほらっ、早く起きた起きたっ!」
「あーっ、乱暴はやめてぇ〜」
ガクガクっと体を揺さぶられる俺…
…いやいや…確かに自堕落なのは認めるけどよっ…
無理矢理起こされる謂れも無くないですかね?
てか、ゆらしすぎっ…あっ…頭の中が混ざるぅぅっ…!
「…うぉぉっ……頭がぐらぐらするぅっ…少しは手加減してくれよぉっ…」
「…あっ…申し訳ないっ…」
シュンとしおらしくなるマリーナ…
「…」
いやいや…ズルくない?
なまじ美人なだけに、可愛いと思えてしまうのは反則だと思うわ…
なんなの…この人…
「…で、いきなり人のテントに入ってきて…何の用ですかね?…」
「んっ…ぁぁっその…頼みがあるんだっ」
「…頼み?……騎士団に入れ云々なら、前伝えた通りお断りだぞ?」
「…えぇー…」
「えぇーじゃありませんっ…まったく……枯れたオッサンだから良いものの…年頃の娘が、得体の知れないオッサンのテントに入るもんじゃねーよ……傷物にされても文句は言えねーぞ?」
「えっ……るっ…ルート殿なら別にっ…///」
頬を赤らめながら、人差し指を合わせくねくねするマリーナ。
…えぇぇっ…
何、その満更でもないみたいな感じ…
「…るっ…ルート殿が望むならっ…今すぐにでも……でも、初めてはやっぱり…し…寝室のベッドとか…///」
「はいはい、しなくていいし求めてないから…むっつりスケベちゃんは落ち着こうね」
「むッ!?///」
「むっつりスケベだろうよ。じゃなきゃ、10も離れたオッサン相手に欲情したりしません…てか、マジで用事は何なんだ?。こんなやり取りしにきたわけじゃないんだろ?」
「あぅっ…///……そ…そのぅ…実は…」
頬を赤らめながらも、ここに来た目的を話し出すマリーナ。
「…私と鍛冶屋に行って欲しい……」
「…はぁ…?」
はて、鍛冶屋とな?
◇◇◇◇◇
場所は変わり、賑わう王都内…
俺達は並んで鍛冶屋に向かって歩いていた。
「…しかしまぁ……正直意外だったわ」
「ん…何がだ?」
「いやなに…これは騎士団長様の仕事なのかと思ってな」
「…あぁ…別に私じゃなくても良いんだろうが……やはり騎士団を預かる身だからな…きちんとした物を与えてやりたい」
「はぁ…ご立派な事で……だが、騎士団長直々に…それも鍛冶屋を選ぶ必要ある?」
そう。
マリーナが鍛冶屋に向かう目的…
それは、新生騎士団御用達用の鍛冶屋を選ぶためだ。
…何故俺は付き合わされてるのか分からんが…
とにかく、今はかなり忙しいらしく、騎士団長様でも駆り出されてしまうようだ…
だが、そもそも…これには明確な理由があったりする。
「…まさか、調べれば調べるほど不正しか出てこないとは…」
「…こればっかりは御愁傷様としか言いようがねえなぁ…」
なんでも、貴族達のやらかしていたツケはかなりの量らしい…
消耗品から武具などの必需品まで貴族達の息がかかり、好き勝手していたとか…
今回の鍛冶屋についてもそうだ。
調べてみれば、鍛冶屋ですらなく…
何でも、他の店に任せたりする…紹介屋?ってやつだったんだと…
これまで騎士団におろしていた品は全て寄せ集め…
それなりに良い品もあったんだろうが…
まぁ、国として恥だよなぁ…
「…よくもまぁ…どうやれば国の大事な戦力を蔑ろに出来る頭ができるんだろうな」
「…耳が痛い…」
「別にマリーナを攻めちゃいねーよ……それに、紹介屋なる商売も悪いとは思っちゃいねぇ……だが、国としちゃダメだわな」
そう。
平和ボケしているから分からんか知らんが…
国の騎士団とはつまり、その国の戦力そのものだ。
戦力とはすなわち、戦える力…
これは個人個人の能力だけじゃない。
もちろん、能力も大事な要素だが…
“息の合った高度な連携“、“万全に整備された武具“、“いつでも使える消耗品“、“必要な時に入手できる手段“…
全て合わせて“戦力”だ。
それを蔑ろにしてたとあっちゃ…国として恥でしかない。
…だって、いつでも攻め滅ぼしてくださいと言ってるようなもんだろ…これ…
「…ふぁぁぁっ…しっかし…この国にまともな鍛冶屋はあるのかね?」
「それはあるに決まってるだろう、王都内はかなりの広さだ。無い方がおかしい」
「ん…ぁぁー…いや、そういう事じゃねーよ…これだけ不正がたくさんあった国だ。そんな国にマトモな鍛冶屋があるって思えるか?」
「…うっ…」
どうやら言いたいことを理解できたのか気まずそうだ。
「しっ…しかしだなっ…あくまで悪かったのは上の方なわけでっ…」
「上が悪けりゃ下も悪くなるってもんだろ?」
「…そ…そう言われると返す言葉がないがっ……」
「いやいや、早すぎんだろ…折れんの…」
「…いやその……自分が予想していた以上の不正量だったし…言い返すのも難しくて…」
「……はぁ……まぁ…あれだ……頑張ってる人はいるっちゃいるだろうし……とりあえず、一回見てみようぜ?。話はそれからでも遅かねーだろ」
「…うん…」
若干落ち込むマリーナを背に俺達は王都内の鍛冶屋を見てまわるのだった。