第二の相談:若き村娘の悩み(解決編)
「…んー…これは…」
俺は離れた位置から件の牛を眺めていた。
確かに、リナが言うように寝転んだまま全く動く気配がねぇ…
だが、どことなく元気そうだ。
…こりゃぁ、病気じゃなく…もしかしたら…
「あっ、ルートさんっ!」
考えに耽っている中、リナがこちらに近寄ってきた。
「ん…もう食べ終わったのか?」
「はいっ、美味しくいただきました!」
「…まさかとは思うが…お母さんの分まで」
「いっいえいえッ、きちんと持っていきましたからっ///」
「…そうか…ならまぁ、いいんだが…後よ、聞きたい事があるんだが…」
「はい?」
「…ここって雄牛入るか?」
「雄牛ですか…?…いえ、残念ながら……モウちゃんを含めて、みんな女の子です」
あー…モウちゃんって言うんだ…
確か店にいた時も名前言ってたっけ。
「…じゃぁ、何処かで雄牛と一緒にした事はあるか?」
「…そんな事は…」
「あー…例えば“去年”とか」
「…去年……あっ、それでしたら一度っ…他の牧場主さんとの交流の際にっ」
「…なるほどな…」
「…?。それがどうかしましたか?」
「いや、なに……多分だが、あの牛…いや、モウちゃんか……多分病気じゃないぞ?」
「……へ?」
「専門家に聞かにゃわからんが…多分身籠ってる」
「…みご…?」
「…赤ちゃんがいるって事だ」
「あッ…あかちゃんッ!?」
驚いた表情を浮かべるリナ…
ほんと、感情豊かな子だなぁ…
「あくまで憶測だぞ?、確かに動いていないが疲れてる様子もない…基本呼吸は穏やかだ…なら、動かない理由は別にあるんじゃないかって考えた結果、お腹の中に子がいるから…動きたくても動けないんじゃないかと思っただけだ」
「…全然気が付かなかった…」
「まぁ…本当かどうかはマジでわからんからな?」
「でっ…でもっ、それってモウちゃんがお母さんになるって事だよねッ!!」
「ん…あぁ、本当ならそうだな」
「はわぁぁぁぁッ!、凄いッ凄いよぉッ!!」
嬉しそうに小さくジャンプするリナ…
…いやはや…普通に可愛いな…
「…まぁだが…ちと問題もあってな…」
「ふぇ…?」
「…あのお腹、かなりでかいだろ…それに動かなくなったってことはそろそろ…」
俺が言葉を続けようとした瞬間…
「ンモゥゥゥゥゥゥウ!!」
突然、モウちゃんが鳴き出した。
発狂したとかじゃなく、何やら痛みを耐えるような…そんな感じだった。
…まじか…
「もッ…モウちゃッ」
「…さがりな…」
俺はリナにはなれるように言うと、ゆっくり近寄る。
「…やっぱりな…」
水が出てきてる…どうやら破水が始まったらしい。
「とにかく、暴れないようになだめつつ……」
「ヴモォォォウ!!」
しかし、こちらのことを知らないのだから警戒心が強く、出産間近なのに威嚇してきた。
…このままじゃ母子共にやばいな…
「…やっぱだめかっ……リナっ、すまんがモウに話しかけてくれっ」
「えっ!?…うっ…うんッ…もッ…モウちゃんっ…大丈夫…大丈夫だからねぇっ」
「ヴゥゥゥウっ…!」
興奮状態にあるのか、リナに対しても威嚇していた…しかし、俺が話した時に比べちょっとだが反応があった。
「…リナ、落ち着いて…いつものように話しかけるんだ」
「うんっ……モウちゃん、大丈夫だよ〜」
「…ゥヴゥっ…ゥゥゥウっ…」
次第にモウちゃんも落ち着きを取り戻していく。
「ゥヴゥっゥヴゥっ…」
「モウちゃんッ…」
だが、落ち着いてくれば当然痛みに苦しむ事に…
「…見様見真似だが…」
ゆっくり近づき、優しく体を撫でてやる。
「…後は体力勝負だな」
「モウちゃん大丈夫っ…?」
「…早いうちから落ち着いてくれたからな…体力は大丈夫だと思うけどな…」
本当にこれから先はこちらからできることは少ない…
「…っ…」
「…ゆっくり話しかけてあげなさい…優しく撫でたりしてね」
「…う…うん」
2人で必死に頑張る“お母さん”を見守った。
そして…
「…ン…ンモゥ」
「モゥゥゥ」
ペロペロと生まれたばかりの子供を舐めるモウちゃんの姿が…
「はわぁぁぁぁっ…!!」
「…無事に生まれてよかったな」
「うんッ、ルートさんっ…ぁ…ありがとうっ///」
「…いや、別に俺は何も…頑張ったのはモウちゃんだし…」
「でもっ……ルートさんがいなかったら、私あわあわしてただけだろうしっ…えへへ///」
と言いながら、恥ずかしそうに服の袖を掴んできて、満面の笑みを浮かべるリナ…
…なるほど…そんなに、赤ちゃん牛が産まれたのは嬉しかったようだな…
…
…まったく…
…此処まで付き合うつもりはなかったんだが……
…
…はぁ…
…こんな嬉しそうな笑みを浮かべてるのを見たら、案外悪いもんじゃないと思えちまうな…
「…リナ?、そっちにいるの?」
「えッ!?お母さんッ!?」
慌てた様子でリナは立ち上がると駆け寄っていった。
…
…はぁ…まったく…リナも大概だが、母親の方も…とにかく安静にしてなさいなっての。