第一の相談:女騎士団長の悩み(相談編)
「失礼するっ」
キリッとした感じで入ってきたのは、若き女騎士だった。
…ふむ……形だけの騎士ってわけでもなさそうだな。
「…ここは、ルート殿の相談屋で間違いないか?」
あっ…
ちなみに俺の名前はルート・ビシュワークだ。
自己紹介が遅れて悪かったな。
「あぁ、間違いないぜ。ただし、店の名前が違うな…無関係の相談屋だ」
「…酒場のマスターからはそう聞いていたのだが…」
「…あー…あの爺さん…どうせ店の名前を忘れたから、俺の名前にしたんだろうなぁ…いいかげん息子さんに席を譲ったらいいのに……さて、そんな爺さんから紹介されたみたいだが……この店のルールは知ってるんだよな?」
「…身分や立場など関係なく…ここにいるのは相談をする者とされる者…出合っているか?」
「あぁ、大正解だ。で…騎士さんはそこらへん理解してくれてきてるってことでいいんだよな?」
「…あ…あぁ……話は聞いていたが…話以上の無遠慮っぷりだな………」
「これが俺のスタンスなんでね…騎士さんだけでなく、平民だろうが、貴族だろうが、王族だろうが変わんねーよ」
「…嫌、それは大問題だと思うのだが……いや、これ以上は言うのもおかしいか……」
「そうそう、嫌なら来んなって話だよ……さて…騎士さんの相談ってのはなんだ?」
「……」
本題を切り出してみれば、騎士さんは迷ったような表情を浮かべた。
「…あまり…身内の事に対して、部外者に相談するのはどうかとも考えたのだが……まず初めに…知っているかもしれないが、ベルヘルミナ騎士団…その騎士団長であるマリーナだ」
…すまんな。
全く知らんわ…
「…あー…そう…」
「…もしかしてだが…知らなかった感じ…ではあるまいな…?」
「すまん、まじで知らん」
「…な…っ…なんとっ……あのベルヘルミナ騎士団だぞ!?、いやっそこは知っているだろう!?」
「…すまん…」
「…っ……」
信じられないと言う表情を浮かべる騎士団長様…
いや、知らないものは知らないし…
…まぁ…適当にフォローしとくか…
「…あー…ほら、アレだよアレ…俺って旅人だから……国特有の事情とか、そんなの興味がな…いや、詳しく無いんだよ」
「…今興味がないと……はぁ……まぁ…そう言うことにしておこう」
「おう」
「……少しも知らないのか?」
「残念ながら」
「……結構有名だと思うんだけどなぁ……」
拗ねたように呟くマリーナ…
いやいや、ギャップが半端ないけど本題に入ろうよ…本題に…
「…あー…そろそろ本題に入ってくれるか?」
「あっ…す…すまない……んんっ……実はその…恥ずかしい話なのだが……騎士団のことでな…」
「ん……騎士団とな?」
はて…
ここでは身分とか無しと言ったが…
話して大丈夫な内容なの…それ?
「…当然だが、国を守る騎士団である以上、人員が不足してますなんて言えない」
「…まぁ、当然だよな」
いざと言うときに人がいませんとか洒落にならんしな。
「だから、毎年募集をかけるんだが…」
「…集まらないとでも言うのか?」
「いや、集まりはするのだ…集まるのだが…」
「…?」
「…その……プライドが高い者が多く…」
「……あぁー」
何となくだが言いたいことは理解できた。
「…貴族か?」
「…ん…」
小さくうなづくマリーナ。
…まぁ…当然だよな…
国の騎士団…
ベルヘルミナ騎士団のことは知らないが、国の騎士団というものがどのような立場にいるかは理解している。
…当然、その価値もな…
要はブランド…
国を守る騎士団の一員というだけで箔がつく…それだけだ。
「…つまらん貴族のお遊びに巻き込まれているな…」
「…お遊び……確かにその通りかもな…」
「……で、何が問題なんだ…と聞くまでもないか……」
「…わかるのか?」
「…訓練をまともにやらないとかだろ?」
「……どうしてわかったのだ?」
「何…状況証拠を合わせただけだ……人員不足の問題でなく…貴族のお遊びに巻き込まれた…そして、その騎士団長様が困っているというなら…候補は絞られる…大方、新規で入ってきた貴族の坊ちゃん達が我儘を言ってるんじゃないかと思っただけだ」
「……恥ずかしい話だが…全くその通りだ」
「……で、この事が相談とどんな関係があるんだ?」
「……ぇ…えぇと……いや…そのだな………」
「ん…なんだよ、はっきりしねぇなぁ…」
「……どうもその……こういった事を相談して良いものかとも悩むのだ………」
「…ならやめるか?」
「いっいやっ…ちゃんと話すからっ…!………そのだな……どう教育したらいいかと…」
「……教育?」
「…あぁ…」
「…もしかしなくても…その我儘坊ちゃんたちをか?」
「…あぁ…」
「…」
「…」
…はぁ?
「いや、無理だろ」
「いやっ…だがしかしっ…そう簡単に諦めてしまうのは…」
「いやいやっ…無理なものは無理だって…諦める以前に時間の無駄だ…そもそも、お前さんだって気がついているだろ?。貴族のアホ息子共を更生させるなんて無理な話だと」
「…っ…」
…様子見もあって、言ってみたが…
どうやら、図星のようだな。
「…もちろん必ずしも更生させることはできないというつもりはない…だけどよ…その歳までの経験で培ってきたもんを…たかが数時間…それも赤の他人が言ってなんとかなるもんじゃねーだろ」
「…そうかもしれないが……だが、他にどうしようも…」
わかってはいるが、どうしようもない…
そんな雰囲気をマリーナから感じた。
…
…まぁわからなくもない…
貴族の連中は大きく二分に分けられる…
周りを見て利益を追求出来る者と自分主体の独り善がりで利益を追求する者だ。
どちらも利益を追求する者だ…
だが、この違いにより害悪かそうでないかは分けられる。
おそらく、マリーナが頭を痛ませているのは、後者の方だろう。
そういった奴らは、自分たちのしていることは正しいと考えてこちらの考えなんて利きもせず、無理難題を押し通そうとしてくる…
加えて金だけはあるからな…さらにめんどくさい…
…国の騎士団って言っても、個々で独立しているわけじゃない…
運営費とかそんなのを担っている部分に件の貴族がいたりするんだろう…
…まさに八方塞がりって奴だな…ははっ。
「で、お前さんとしちゃ…特にどうにかできる案は浮かばないから、なんとか成長を促そうと躍起ってわけか」
「…あぁ……」
「はっはっは、お前さんも優しいねぇ〜」
「…優しさなどではないさ…ただ、問題である以上…なんとかせねばならない…だが私が思いついている案としては、もう成長を促すことしか…」
「いや、切れよそんなゴミ共」
「っ…」
「いても邪魔で害しかない…はっきり言わせてもらうが、その馬鹿共は次の新人とかに絶対いびり散らかすぞ?…あと加えていうなら…国を守る要である騎士団……いざとなれば、命をかけてでも国を守らなければならない事態があるかもしれない……そんな時に絶対逃げ出すぞ、そいつら」
「………それは…………………わかってはいる…これが逃げに近い選択であることは…だがっ…しかしどうにも」
「ふっ…」
俺は小さく笑い飛ばすと…
「…相談ってのは聞いてやるだけじゃない…それだと壁に話しかけているのと変わらん…ちゃんと次に向かうためのヒントなりアドバイスなりしてこそ相談というもんだ……でだ…単刀直入に聞くぞ…俺の案に乗ってみる気はあるか?」
「……へ…?」
俺は悪魔のような悪い笑みを浮かべながら、マリーナに問いかけた。