なんかよく奴隷達がムチ打たれながら回してる“アレ”の名前がわかる小説
サムソンは産まれた時から目が見えなかった。理由はわからなかった。
サムソンの両親は我が子の身に起きた悲劇を嘆き、サムソンの盲目は自分達が犯した罪の証だと考えた。
自分達の代わりに神の罰を受けたサムソンを、両親は深く愛した。
両親の愛を受けて育ったサムソンは立派に成長し町一番の大男となった。大人に成ったサムソンは自分を育ててくれた両親への恩返しがしたいと町長に相談し、町長は町で一番大きな造船所を紹介した。
造船所では大きな船の部品を動かすためのクレーンがあり、クレーンのロープを巻き上げるために『キャプスタン』が使われていた。『キャプスタン』の構造は単純だ。縦に長い柱の下部に横に突き出した棒がついており、この棒を押すと柱を軸にして回転が発生する。柱にはロープが巻き付くようになっており、回転に合わせてロープを巻き取ったり伸ばしたりすることで重い物を持ち上げたり降ろしたりするのだ。
サムソンは盲目であったが監督の掛け声に合わせて棒を押すことは難しくなかった。サムソンは直ぐに押し手達の呼吸を学び、目の見える者に混ざって棒を押すようになった。大きく育ったサムソンの膂力は凄まじく、一人で三人分もの役割を果たした。
押し手の給料で親孝行をすると両親は大変喜び、家族の愛と絆は一層に深まった。
サムソンの誠実な働き方と恩を忘れぬ実直さは町中で有名となり、『押し手のサムソン』の名は広く知られた。
「盲人を働かせるなんて虐待だ! 恥を知れ!」
「障害者への暴行を許すな! 今すぐ解放しろ!」
「子供は親の奴隷ではない! 親失格だ!」
名前が広まって暫くすると、サムソンは造船所から解雇された。
押し手は障害者の仕事に相応しくないと教会や人権団体が主張し、連日に渡って誹謗中傷が造船所に届いたからだ。最初の頃はサムソンが望んで働いていること、彼以上に押し手として誇らしい人間はいないと社員達は主張したが、マイナスイメージのある企業の製品を買いたくはないとユーザーが離れ、風評被害は社員達の私生活にまで及び、社長が苦渋の決断を下したのだ。
サムソンは長く雇ってくれた社長の苦悩を理解し、会社への恩に報いる為にも解雇を受け入れて押し手を辞した。
その後のサムソンは教会に保護され、非道な両親の下で暮らさせるわけにはいかないと、他の障害者と同じく山奥の障害者達のための修道院での生活を余儀なくされた。
補助金や年金又は寄付を受け取り、何をするにも安全が配慮され、介護人達の世話を受ける生活にまるで苦はなかったが、サムソンは次第にやつれていった。
最後の時、すっかりと細くなった腕を伸ばしサムソンは産まれて初めて不満を漏らした。
「私は押し手のサムソンとして死にたかった」
その言葉を聴いた者は誰もおらず、サムソンはひっそりと息を引き取った。