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夏色のハンカチ  作者: ねこぽん
第3章 -- お手伝い
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「じゃ、頼んだから」

「はい、先輩」


 あたしは生徒会の役員、ではないけど、いろいろお仕事を手伝ってる。クラスで何人か選ばれて、雑用をやることになってて、ことしはそれに当たっちゃった。はあ、面倒だなあ。


 今日の仕事は、印刷物の製本。といってもコピーは終わってるから、これを折って、ホッチキスで止めるだけ。でも、これだけ、なんだけど、面倒なんだよね。みんな帰っちゃったから、ひとりでやらないといけないし。


 ええと、これを折って。ぱちん。折って。ぱちん。……。


 がらら。あ、だれか入ってきた。

「こんちは。資料もって……あれっ」

本吉くんだ。

「石上さん、先輩は?」

「さっき、帰っちゃったよ」

あたしが答えると。

「えーっ。ひどい先輩だなあ。自分は資料たのんどいて、帰っちゃうなんて」

……あーあ。また本吉くんのお人好しが出てる。

「本吉くん。資料、置いていけば?」

「あ、そうですね。メモメモ、と……」

あ、ポストイットがある。ちょうどいいや。

「はい」

「あ、ポストイット。ありがとう、石上さん。一枚いただきます」

「うん、いいよ」

どさっ。資料が机の上に置かれた。


「……これでよし、と。ところで、石上さんは何してたんですか?」

……え? な、なんであたしのことにふるかな。


「え? あ、うん。製本」

「スッチオッチホッチかぁ」


何、それ?


「印刷して、折って、ホッチキスで止めることをいうんですよ」

へえ、そういう言い方もあるんだ。おもしろい。

「どれだけ残ってるんです?」

「このひと山。ふう」

ため息をついた。


「手伝いましょう」

え? そ、そんな急に言われても。

「……え、いいよ。本吉くん」

 ……本吉くんとは、お見舞いの一件以来、あんまり話をしてない。もともと、話をすることなんてなかったんだけど、でも、なんだか話しづらくて。

「ふふふ、わたしの腕前をナメてますね石上さん」

……って全然ひとの話聞いてない~。

「な、何よそれ」


「折りはこーやるんですっ。見てなさい」

本吉くんは、折ってない紙を一掴みすると、すごいいきおいで折っていく。あっというまに、紙の山が折られていく。まるでマジックみたい……。


「ふ。見たか……ってなにぼーっと見てるんですか。石上さん」

え、な、何?

「ソートまでやりますから、ホッチキスお願い! いいですか?」

「う、うんっ」


ふええ、なんだか有無を言わさず仕事させられてるよお。

「はいっ」

「はい……」ぱちん、ぱちん。

「はいっ」

「はい……」ぱちん、ぱちん。すごいいきおいで積み重なっていく資料。本吉くんは手慣れた手つきでどんどん積み重ねていく。あたしはそれについていくのが精一杯。

「はひー……」

「がんばれ」

「は、はいいっ」


ま、まだまだあるんだよお。大変だよお。こんなの、ひとりでやってたら、いつ終わるかわかんないよ。……え、ひとりで?


「もう少しですよー」

「うん」

ひとりでやってたら……どうなってたんだろ。

「……」

「もうひと山っ」

ひとりで……

「……」

 ひとりで……


「あたっ……いてて」

……あたしは、その声に現実に引き戻された。

「本吉くん? どうしたの?」

「あ、なんでもない……紙で手を切っただけ」

大変。傷口から雑菌が入ったりしたら大変だもの。

「見せて」

「大丈夫ですよ」

「見せて」

「大丈夫ですってば」

「見せてっ」

強く。

「……は、はい」

「……血が出てる。痛いよね」


紙で手を切るって、意外と深いとこまで切ってることがあるのよね。ちゃんと消毒しておかないと……って、たしかここに。あった、救急箱。


「ちょっと……しみるよ」

消毒液をつける。


「うん……つっ」

「がまんしなさい、男の子でしょ」

「は、はあい」

……え? な、なんかあたし、とんでもない発言しちゃった?

「え、ええと、とりあえずバンソウコウ貼って。これでよし」

「あ、ありがと……」


あれ、な、なんでよ。本吉くん、なんで赤くなってるのよ。あたしまで恥ずかしくなるじゃない……。


「さ、さてと。続き続き」

うん、つづきつづき。


 あんなにあった山が、いつのまにかすっかりなくなってた。

「これでラスト」

「うん。ぱちん、ぱちん……できたあ。あーあ、つかれた……」

「お疲れさまです」

本吉くんがまた微笑んでくれる。


「うん……あ、本吉くんもありがと。お疲れさま」

あたしも微笑み返す。


「ふたりでやると早かったでしょ」

「うん。ひとりだったら途方に暮れてたかも」

「よかった。……こないだみたいにいやがられたら困るしなあ」

本吉くんが小声でつぶやくのが聞こえた。


「え。何か言った?」

「な、なんでもないです、なんでもない」

……しっかり聞こえちゃった。まだ気にしてたんだ、あのこと。


「今回は、ほんと助かったよ。ありがと」

「い、いやあ。たまたま通りかかっただけですから」

「なんでもいいよ。助かったんだから」

「そ、そう? え、えへへ」

今回は、素直に感謝しておこ。ほんと、どうなるかと思ったもんね。


「じゃ、じゃあ、今日はこれで引きあげますね。またあした」

「え? あ、うん……」

もう、帰っちゃうんだ。……あれ、なんだろ。何かが、ちょっと、ちくん、とした。

 ……がらがら。


「……さよなら」

そうだよね。本吉くんはただのクラスメイト。何でもないよね。

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