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教室につくと、みんな来ていたけど、あいつの席は空いてた。あれ?
……がらがら。あ、本吉先生だ。
「あー。みんな席に着け、出席をとる。石上」
あいつはどうしたのかな……。
「石上?」
え?
「は、はい」
「どうした、石上?」
ぼやっとしていたらしく、先生の鋭い声がした。
「い、いえ……。なんでもないです」
慌てて返答。
「ならいいが。伊藤」
……結局、その日、本吉くんの名前は呼ばれなかった。昨日のことがあったから、少し気になってる。
「……先生」
気になったわたしは、本吉先生を呼び止める。
「ん、なんだ石上」
「えと……えと、本吉くんは?」
「風邪だとさ。いまごろ熱だして寝込んでるところ」
「そ、そうですか……」
まさか。
「まったく、史裕のやつ、雨の中濡れて帰ってくるんだからなあ。そりゃ風邪もひくぞ」
そんな……。まるで、あたしのせいみたいじゃない……。
あいつにこの傘、返しにいかなきゃ。
「あの、先生。あいつ、どこに住んでるんですか?」
「ん、あいつって、史裕か? あいつは、うちだ」
え? またおかしな話が。
「うちに居候だよ。高校卒業までだがな」
「そ、そうなんですか……」
「どうかしたか?」
先生に問われて、あたしは一部始終を先生に話した。あいつが傘を押し付けて帰っていったこと。そして、その傘がいまここにあること。
「そうか。じゃ、この傘は……いや、石上が持っていったほうがいいかもな。できればそうしてくれないか」
「で、でも……」
「そうしなよ、秋子」
突然、背中で美弥子の声がした。
「み、美弥子ちゃん! いつからいたの」
「一部始終ぜーんぶ。すっかり聞いてたわよん」
「あう……」
やな予感がするよ……。
「結城、石上のつきそいしてやってくれるか」
「ええ、もちろん。こんな楽しそうな……げふん、親友の大事な話、見逃すわけには参りませんものっ」
み、美弥子ちゃん……楽しんでるでしょ。
「ということだ。あとで職員室へ来い」
……先生に呼ばれた。
「ええ、ちゃあんと捕まえておきますね。先生」
「頼んだぞ結城」
「あの、あの……」
あ、あたしの立場は……。やだあ、もう。