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翌日は雨が上がった。雨が上がったあとの青空は、細かい塵が洗い流されて、とてもすっきりと見える、と理科の先生が言ってた。
あたしには、違いが良くわからない。
美弥子が来た。
「あ、秋子! おっはー」
「美弥子ちゃん。おはよう」
「あれ、秋子。傘、二本も持ってきてる」
見つかっちゃったか。昨日の話、しておかないとダメかな。
「……あのね、間抜けな話なんだけど。昨日、傘忘れちゃって。しかも置き傘もなかったから、大変だったの。で、今日はその」
「置き傘を二本持ってきたわけね」
美弥子が言葉を引き取る。
「うん」
「でも一本はなんか秋子っぽくない傘だぞ」
え? 美弥子、なんか勘がよくない?
「ちょっと見せてみなさい~」
「え、ちょ、ちょっと、美弥子ちゃん、なにするの」
言うが早いか、美弥子に傘を取られてしまった。
「……あら。『本吉』って書いてあるう」
あ。名前が書いてあるのが見つかっちゃった。どうしよ。
「……ふふーん♪ そっか、そんな仲だったんだあ。うらやましいなあ」
「な、なんのことよ」
うう、あらぬ誤解を招いちゃったかな。美弥子ってそういうの好きだから。
「ううん、秋子が男の子に興味を持ってくれて、お姉さんはうれしいのよお」
「み、美弥子ちゃん、ち、ちがうって」
そんなわけないじゃない。
「だって。これ、本吉くんのでしょ?」
美弥子がにやにやと笑うけど。
「そ、それはそうだけど……」
「昨日傘忘れて、彼と相合い傘って」
うぅ、やっぱり。誤解だってば。
「そんなことはありません。ほんとに。美弥子ちゃんと帰ろうかな、と思って下駄箱で待ってたら、あいつが来て、傘押し付けてくんだもん」
「へー。そうなんだあ。やるなあ、本吉くん」
美弥子は意外そうな顔をする。
「いい迷惑よお」
思い出しても腹が立つ……。
「まあまあ。人の好意は素直に受け取っておくものよ、秋子」
美弥子はそういうけれど。
「そうはいってもさあ」
「まあまあ。少なくとも悪気があったわけじゃないし」
「そうかなあ」
「……でも、ごめんね」
美弥子が少しだけ声を落とす。
「ん?」
「秋子、下駄箱で待ってたんだ。先帰っちゃったでしょ、あたし。気がつかなくってごめん」
すまなさそうに。
「あ、ううん、それはいいよ。約束してたわけじゃないし」
わたしの一方的な話だったのだから。
「ま、おかげで王子様にガラスの靴ならぬ傘を借りられたわけだしい」
「だれがよ! ちょっと調子に乗りすぎ、美弥子ちゃん」
「あははは!」
「あはははじゃなくて、まったく……」
結局、美弥子にさんざからかわれて、あたしの立場ったらなかった。こういうときだけ、意地悪なんだもんなあ、美弥子って。