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雨はしばらく降り続いた。どうやら、前線が停滞しているらしくて、雲は切れそうにないって、天気予報は言ってる。雨の確率は50%。降ったり、やんだり。
なのに、あたしはその日にかぎって傘を忘れてきてた。
「……おかしいなあ。置き傘があったはずなのに」
ロッカーにも、下駄箱にも、折り畳みの傘は入ってなかった。
「しかたない。玄関で美弥子ちゃんでも待ちますか」
その日、美弥子は部活動してて少し遅れる、って言ってた。あたしは生徒会の仕事くらいしかやってないし、この時期は仕事がほとんどないから、いつも帰宅部。美弥子に会えたら、傘にいれてもらおう。会えなかったら……どうしよ?
「……」
雨は降り続いてた。そんなに激しい雨じゃなかったけど、でも傘なしではちょっと。美弥子、来ないかな……。
「……あれっ、石上さん」
「え?」
ふと名前を呼ばれてふり返ると、男子が立っていた。名前は……えと。
「え、えと……も、本吉くん、だっけ」
「あ、覚えてもらえてたんだ。よかった」
……ほっ。正解でよかった。
「ところで。だれかと待ち合わせですか」
そんなこと聞くなんて、デリカシーのないやつ。やだなあ。
「あなたには関係ないよね」
突き放したつもりだった。でも。
「……結城さん待ち?」
「えっ」
びっくりした……。いきなり言い当てられるなんて。
「ど、どうしてそんなことっ」
「石上さんと結城さんって、いつもいっしょだから、もしかしたらと思って」
あ、そう……。なあんだ。
「……はあ。あたしたちって、組みで見られてるわけ?」
いつも一緒ってわけじゃないのよ?
「ですけど、結城さんならとっとと帰っちゃいましたよ」
え? そうなの? 困ったな。約束してたわけじゃないから、裏切り者~、とは言えないけど。
本吉くんがつぶやいた。
「……傘、忘れたんですか」
「うん、そうな……あ、あんたには関係ないでしょ」
「いやまあ、そんな攻撃的にならなくても。なんでしたら駅まで送りましょうか?」
ば、バカ! そんなことしなくていいって!
「おことわりします。なんでそんな」
「そうですか。じゃ、傘だけでも使ってください」
そういうとあいつは、持ってた傘をあたしに押しつけた。
「あ、あの、そういうことは……」
「じゃ」
そういってあいつは、鞄を傘がわりにして、走っていってしまった。
「あ、あのね……ど、どうすりゃいいのよぉ」
ちょっと、なんてことするのよ! まったく、デリカシーのないやつ……。
突然押しつけられた好意に、すごく腹立たしいものを感じてたあたしだったけど、雨には勝てなかった。
「はあ。……傘。借りて帰ろ」
あした、ちゃんと返そう。男物の傘だから、けっこう恥ずかしいんだけど。
その夜、あたしはうちで、いらない詮索されちゃったことは、いうまでもない。あたしだって、お年頃の女の子なんですからね。まったく。