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夏色のハンカチ  作者: ねこぽん
第2章 -- 押しつけないで
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雨はしばらく降り続いた。どうやら、前線が停滞しているらしくて、雲は切れそうにないって、天気予報は言ってる。雨の確率は50%。降ったり、やんだり。


 なのに、あたしはその日にかぎって傘を忘れてきてた。

「……おかしいなあ。置き傘があったはずなのに」

ロッカーにも、下駄箱にも、折り畳みの傘は入ってなかった。

「しかたない。玄関で美弥子ちゃんでも待ちますか」


その日、美弥子は部活動してて少し遅れる、って言ってた。あたしは生徒会の仕事くらいしかやってないし、この時期は仕事がほとんどないから、いつも帰宅部。美弥子に会えたら、傘にいれてもらおう。会えなかったら……どうしよ?


「……」

雨は降り続いてた。そんなに激しい雨じゃなかったけど、でも傘なしではちょっと。美弥子、来ないかな……。


「……あれっ、石上さん」

「え?」

ふと名前を呼ばれてふり返ると、男子が立っていた。名前は……えと。

「え、えと……も、本吉くん、だっけ」

「あ、覚えてもらえてたんだ。よかった」

……ほっ。正解でよかった。


「ところで。だれかと待ち合わせですか」

そんなこと聞くなんて、デリカシーのないやつ。やだなあ。

「あなたには関係ないよね」

突き放したつもりだった。でも。

「……結城さん待ち?」

「えっ」

びっくりした……。いきなり言い当てられるなんて。

「ど、どうしてそんなことっ」

「石上さんと結城さんって、いつもいっしょだから、もしかしたらと思って」

あ、そう……。なあんだ。

「……はあ。あたしたちって、組みで見られてるわけ?」

いつも一緒ってわけじゃないのよ?


「ですけど、結城さんならとっとと帰っちゃいましたよ」

え? そうなの? 困ったな。約束してたわけじゃないから、裏切り者~、とは言えないけど。


 本吉くんがつぶやいた。

「……傘、忘れたんですか」

「うん、そうな……あ、あんたには関係ないでしょ」

「いやまあ、そんな攻撃的にならなくても。なんでしたら駅まで送りましょうか?」

ば、バカ! そんなことしなくていいって!

「おことわりします。なんでそんな」

「そうですか。じゃ、傘だけでも使ってください」


そういうとあいつは、持ってた傘をあたしに押しつけた。


「あ、あの、そういうことは……」

「じゃ」

そういってあいつは、鞄を傘がわりにして、走っていってしまった。


「あ、あのね……ど、どうすりゃいいのよぉ」

ちょっと、なんてことするのよ! まったく、デリカシーのないやつ……。


 突然押しつけられた好意に、すごく腹立たしいものを感じてたあたしだったけど、雨には勝てなかった。


「はあ。……傘。借りて帰ろ」

あした、ちゃんと返そう。男物の傘だから、けっこう恥ずかしいんだけど。


 その夜、あたしはうちで、いらない詮索されちゃったことは、いうまでもない。あたしだって、お年頃の女の子なんですからね。まったく。

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