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夏色のハンカチ  作者: ねこぽん
第1章 -- 見上げれば雨雲
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1

 その日も雨だった。

「よくふるなあ……」

「秋子、ぼやいたってしょうがないよ、梅雨だもん」

「……そうだね。じゃ、さっさとかたづけて、帰ろっか」

「うん」


 その日、あたしと美弥子は掃除当番だった。掃除当番といっても簡単なことしかしない。黒板を消して、ロッカーの上を拭くだけ。あとは、掃除人が来てやってくれる。面倒だけど、いつも使っている教室だから、それくらいのことはしないといけないよね。


 教室の扉が開いた。本吉先生、うちのクラスの担任の顔がのぞいてる。

「……お、石上、結城。掃除中か」

「はい」

「ふたりとも、ごくろうだな」

「いいえ、どーいたしまして」

美弥子、そのいやみったらしい言い方、あんまりよくないと思うなあ。美弥子らしいっていえば美弥子らしいけど。

「……結城、ちょっといいか」

「はい?」

「ちょっと頼まれてほしいんだが……荷物運びなんだがな」

あれっ、先生。美弥子に頼みって、そんなことですか?

「せんせー。そういう力仕事は男子に頼んで下さい」

ほら。

「そ、そうか。わかった」

でも、先生……困ってるみたい。困ってるよね。あたしでよければ、かわりになろう。

「……あの、先生。あたしでよければ手伝いますけど」

「お、そうか石上。助かる」

「あーきーこー」

「で、でも……美弥子ちゃん」

困ってる人はほおっておけないよ。

「あーあ。しょうがないなあ。秋子があんなこと言うんじゃねえ。あたしも手伝いますか」

ありがと、美弥子。

「ははは、ふたりともすまん。じゃ、あとで職員室へ来てくれ」

「はい」

「はいはいっと」

……がらっ。

「ふう。……まったく秋子ってば、人がいいんだからあ」

「で、でも、なんかすごく困ってそうだったし」

「それを人がいいっていうのよ。……ま、でも、そこが秋子のいいところなんだけどね」

「え?」

「さ、さっさと残り片づけていこっ」

「あ、うん」

……でも、なんだかんだいいながら、ちゃんとつきあってくれる。そこが美弥子のいいところ、なんだよ。


「作戦成功。うむ」

「先生。聞こえてますよー」

「お、おわっ」


「美弥子、どうしたの?」

「うん? な、なんでもない。ちょっと悪人退治を」

「はぁ?」

何してたの? 美弥子ってば。


 黒板消しをきれいにして、掃除は終わり。簡単なものだけど、ちょっとした貢献。さ、先生のところへ行こう。


 こんこん。

「……本吉先生」

「来てやったわよ、先生」

「むう、相変わらず横柄なやつだな、結城は」

「運ぶのって、そのでっかい箱ですか、先生?」

……ふと気づくと、なにやら大きな箱が置いてある。

「そうだ。そこの箱を体育倉庫まで運ぶんだが、中身は軽いぞ」

「軽くても、体育倉庫ってずいぶん遠いじゃないですかあ、先生」

「そ、そうだね……」

遠くない遠くない。わたり廊下の向こうだもの。美弥子、ふっかけてるわね。

「まったく。お人好しのだれかさんに付き合うのも楽じゃないわね」

「な、なんのことかな、美弥子ちゃん……」

「すまんな、結城。実のところ、すでに男子にもだいぶ手伝ってもらっててな。そこにあるのが最後の一個だ」

「あ、そーなんですか。人海戦術ってわけですね」

「少ない人数で往復するより、そのほうが早かろう。というわけでとにかく人数集めたわけだ。すまんな、頼んだぞ」

「はああ。はいはい。……秋子、そっちもって」

「あ、うん」

しかたない。とりあえず、行きましょう。


 先生の言った通り、箱はとっても軽かった。ほんとに箱だけじゃないかな、って思うくらい。中身はなんだか知らないけれど。

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